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大前粟生さんの初児童書作品のラジオドラマ化と、コロナ禍に生まれた作品について

今年3月に刊行された児童書『まるみちゃんとうさぎくん』が本日12月5日午後9時15分から5回にわたって、NHK-FMの番組「青春アドベンチャー」にて、ラジオドラマとなって放送されます!作家・大前粟生さんの初の児童書作品である『まるみちゃんとうさぎくん』について、大前さんからのコメントのご紹介と、担当編集者がこの本が生まれた経緯を語ります。

<ラジオドラマ化にあたって>
みんなひとりひとり違う、という当たり前のことを楽しく考えられる小説になるといいな、と思いながら『まるみちゃんとうさぎくん』を書きました。今回、ラジオドラマになって、登場人物それぞれの"声"がそこにあることがとても感慨深いです。放送を聴くのが楽しみです!  大前粟生

コロナ禍で児童書ができることとは何だろう?

コロナ禍になり、生活が変わりました。マスクをして過ごし、外出制限が出て在宅勤務も進みました。本当に小説の中のような、想像していなかった世界に代わり、オンラインの画面上でしか会ったことがない人とお仕事することも普通となっていきました。そんな生活の中で、子供たちが読む本を作っている編集者として、今までと同じ本を作るのでいいのだろうか?という疑問が、浮かぶようになりました。
 もともと自分自身が子どもだった頃、読んだ本にすごく救われた経験がきっかけで”編集者になりたい”、と思ってついた仕事。では、今、この世界を生きる子どもたちに、どんな本だったら読んでもらえるのだろうか、どんな本であれば昔の自分が経験したような、心に寄り添ってくれる本になるのだろうかと考えたときに、本棚にあった、大前粟生さんの『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が目に入りました。

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2020年5月1日発売・河出書房新社)

 大前粟生さんだったら、今、子どもたちに向けた本を、どんな作品を書くのだろうか。

そう思ったらいても立ってもいられなくなり、勢いに任せて思いの丈をメールしたのが2020年12月7日、ちょうど2年前の今頃でした。そこからメールのやり取りがはじまったのですが、当時、大前さんは文芸誌での連載をはじめ、『おもろい以外いらんねん』を発表されたすぐあとだったこともあり、児童書でご一緒できるのはまだ先のこと……と思っていたところ、年が明け21年の2月に1通のメールが届きます。

1通のメール

「まるみちゃんとうさぎくん」というタイトルの110枚ほどの話の原稿になります。お手数をお掛けしてしまうのですが、お時間あるときにでもお読み頂くことって可能でしょうか??

メールを開いて思わず声が出てしまったほど、嬉しくてすぐにお返事をし、ここから、怒涛のやり取りがスタート。打ち合わせは全て画面を通したオンラインで……初めての状況で作業を進めながら、そして、今年3月に大前粟生さんの初の児童書作品として『まるみちゃんとうさぎくん』が出版となりました。


▲美しい夕日が目を引く表紙と挿絵は板垣巴留さんです。

<あらすじ>事件のはじまりは、夕日町でいちばん大きなお祭りの日。その日以降、外に出ると人々の体が変化するようになりました。目からビームが出る人、手のひらからアイスクリームがあふれる人、100メートルを1秒で走れるくらい、足が速くなった人。どんな変化が出るのかは人によって違って、元に戻る方法は見つかりません。そのため、町では外に出てはいけないことに決まりました。学校はお休み、仕事は家ですることに。そんな生活を送る小学4年生のまるみちゃんとうさぎくん。休校中にオンラインのビデオ通話で仲良くなった2人は、ちょっとずつお互いのことを話し始めます。体が変化した人たちを羨ましいと思う、まるみちゃんと、転校してきたばかりで不安がいっぱいのうさぎくん。そして、2人の体にも変化が……。まるみちゃんとうさぎくん、この2人の小学校卒業までの様子を通して、特別とは何か、普通とは何か、自分とは何かということを優しく問いかけるストーリー。(『まるみちゃんとうさぎくん』

小学生の二人が主役のお話で、もちろん、児童書としての作品ですが、大人にも、大人だからこそ読んでもらいたい本当に温かい素敵なお話です。ゲラを刊行より先に読んでくださった書店員さんたちからもたくさんの感想をいただきました。

コロナ禍の子どもたちは、もしかすると、大人が思っているほど、つらくてかわいそうなことばかりじゃないかもしれない。大変な状況だからといって、苦しむばかりじゃなく、楽しいと思えるような子どもたちを描けたらなと思いました。

大前さんが刊行時の取材などでご自身の幼少期のことを振り返りながら、おっしゃっていたことでとても印象に残っていた言葉です。大人よりもずっと柔軟な子どもたちは、私たちが思っている以上に、違った目線で世界を見ているかもしれない、感じているのかもしれません。そして、すっかり大人になってしまった自分は、もしかしたら、そんな感覚のことを忘れているだけなのかもしれません。

本の中よりもさらにキャラクターが生き生きと描かれているラジオドラマ、ぜひまだ『まるみちゃんとうさぎくん』を読んだことのない方もこのラジオドラマをきっかけに、この本を手に取っていただけると嬉しいです。
                   ポプラ社 宮尾るり

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