タクシー運転手になった夢を見た。『車のいろは空のいろ 白いぼうし』――絵本を思い出すところ#16
絵本の中の風景へ想いを巡らすとき、それを手にした幼い頃の記憶もまた、絵本の思い出の一部になっていく――そんな「絵本を思い出すところ」を編集者とカメラマンが探していきます。
ある時、父親が本をくれた。
今も繰り返し読んでいる。
タクシー運転手の松井五郎は、
こどもにとって、あこがれだった。
そら色のミニカーを見つけたときは、
ねだって、すぐに買ってもらった。
タクシー運転手になった
夢を見た。
車内に広がる夏みかんのにおいは、
こんな感じだったのかなと思う。
いつの間にか、
後部座席のシートに、
本がすわっていた。
車から出て、ベンチにすわり
一番好きな『白いぼうし』の
話を読む。
夏みかんのすっぱい、いいにおいが
体いっぱいにひろがったとき、
はっと目が覚めた。
いつか本物のタクシー運転手になって、
この街を走りたい。
そう思いながら、アクセルを踏みこんだ。
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『車のいろは空のいろ 白いぼうし』 作/あまんきみこ 絵/北田卓史
タクシー運転手の松井さんは、道に落ちていた白いぼうしを見つけます。すっとつまみあげると、中からは白いモンシロチョウが飛びだしました。チョウをつかまえた子ががっかりするだろうと、松井さんは代わりに、タクシーに乗せてあった夏みかんを帽子の下に置きました。車に戻ると、後部座席にはおかっぱの女の子が……。
表題作『白いぼうし』をはじめ、運転手の松井さんとお客さんとの出会いがえがかれた短編集の傑作です。あまんきみこさんの描くファンタジーは、日常のふとした瞬間が不思議な風景へと変わる軽やかさがあり、読んでいて心地良く感じます。夏の日差しや、夏みかんの香りなど、誰もが記憶の隅にしまっているような感覚を、北田卓史さんの挿絵が丁寧に拾いあげてくれます。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4100001.html
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(文・編集/齋藤侑太 写真/白井晴幸)
ポプラ社 齋藤侑太
1985年、茨城県生まれ。2012年、ポプラ社入社。営業職、社内デザイナー、幼児向け書籍の編集を経て、2020年から絵本の編集を中心に担当。
白井晴幸
東京都生まれ。2010年、多摩美術大学卒。作家として活動する傍らカメラマンとして本の装丁や風景、建築などを撮影している。≪Website≫