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ポップインサイト創業記(64)〜スポット型からストック型へビジネスモデルの転換

ビジネスを継続する為には、ビジネスモデルを単発の発注を受ける”スポット型”から、毎月継続の形で契約する“ストック型”へと変えていく必要があります。今回は、私がポップインサイトをスポット型からストック型へ方向転換させていった際のエピソードを紹介します。

目前の事に必死で“スポット型”になっていた

前回までの記事で紹介した様に、創業3年目のポップインサイトは、それまでの堅調な成長からは信じられない突然の危機的状況を迎え、それを乗り越える為に一気に無駄な物を排除するという状況にありました。

しかし、そもそもこの様な状況に陥ってしまったのは、無理な規模感の拡大の他に、「ビジネスモデルが良くない」という理由があったのです。

当時のポップインサイトは、毎月その時に来た案件を処理するといった言わば“スポット型ビジネス”になっていて、月々安定継続的なビジネスモデルの“ストック型ビジネス”になっていませんでした。これは世間の多くの企業が陥りがちな事だと思います。

そして、こういった状況は創業当初の会社にとっては、ある程度止むを得ない事だと思います。会社をスタートしたら、まずはビジネスモデル云々の前に遮二無二売上を取って行かなくてはいけません。この時にはスポット型で取って行く以外に現実的な選択肢はあまりありません。しかし、会社を継続していく為には、どこかの段階で、安定して利益を上げていけるストック型へ移行する事が必須なのです。

ビジネスモデルが問題だった事に気づく

しかし、当時のポップインサイトは、完全にスポット型のビジネスモデルでした。その為、翌月以降の売上がどうなるか全く予測できませんでした。

そしてその為に、3月度は月間売上過去最高を達成、しかし、その翌月の4月は一気に単月赤字、などという信じられない程の月替りのアップダウンが起こり得る状況になっていたのです。

私はその事に気づいて大変反省しました。「ビジネスモデルが間違っていた」と。そして、それと同時に自分が自覚していた以上にビジネスに関して素人だった事に気がつきました。

テンションで起業して、ユーザーテストというサービスに関しては前職からやっていた経験や専門性があって価値を出せていたと思うし、営業、マーケティング、採用と経験していっていたものの、起業して3年目のこの頃は、まだまだビジネスに関して素人でした。

過去にメンターの嶺井さんと一緒に2回起業を経験させてもらっていたものの、その際は社長の嶺井さんがほとんどビジネスモデルを考えていたので、私は現場で回していただけだけで、実は自分で考えているほど知見は身についていなかったのです。それが故にビジネスの本質が見えていませんでした。問題はビジネスモデルの相違にあったのです。

改めて今のビジネスモデルがスポット型になっていて、本来あるべきストック型になってない事が問題点であり、打開しなければいけない点である事に気付きました。

遅きに失した感は否めませんが、4年目にしてやっと当然とも言えるこの気づきに至った訳です。

新ツールもストック型へ切り替える

今の時代は、SaaSビジネスでよく見られる様に、月額の定額課金をどの位高められるかを指標にする事が当たり前といった感じで、ストック型ビジネスが主流になっています。

しかし、当時は単発受注のスポット型ビジネスが一般的でした。私が起業する前に勤めていたビービット社もそうでした。毎月新規案件を取ってくる形です。ただ、規模が大きかった為に1件あたりの単価が高く、毎月の売り上げが1億円ほどコンスタントにあって、年商も10数億あるという感じでした。先々の売上はほとんど見えないものの、サービスの価値が高いので、毎月そこそこ営業する事で何らかの案件を得て売上が埋まっていく、といったイメージでした。

その様な前職のビジネスモデルの経験を経て、きちんとストック型のビジネスモデルにしていくという発想がないままに来てしまったのが、今回の苦戦を強いられた理由でした。私はそれを認識するのと同時に、ストック型に転換して行く必要性を強く感じました。

そこで、どの様にストック型を導入していこうかと考えていた所、当時リリースしたばかりの新ツール“Usertest Express(ユーザーテストエクスプレス)”を月額定額制にする事を着想しました。

それまでUsertest Expressは完全にスポット型でした。1回1人のモニター利用で5,000円という形です。これに月額制を導入する事を考えたのです。

以前紹介した様に、ユーザーテストエクスプレスは社員一丸となって泥臭い努力をする事によって、千人を超える登録者を得ていました。この多くの登録者がいるという事実に可能性を見出し、単発での利用も入り口として残しつつ、付加価値を付けた月額制サービスを打ち出す事を考えたのです。

元同期の大津君の話から方向性を見出す

話は少し変わって、私の前職の同期に大津君という人がいます。大津君は凄く優秀で、現在は松重豊さんの「それ、早く言ってよ〜」というセリフのCMでお馴染みのSansan株式会社でCPO(Chief Product Officer、最高製品責任者)として活躍しています。

▼Sansan社ホームページ https://jp.corp-sansan.com

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この当時、大津君はまだSansan社に移る前で、自分で立ち上げた”株式会社WACUL”という会社の社長をしていました。

▼株式会社WACULホームページ https://wacul.co.jp

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そんな昔も今もビジネス界で活躍する大津君ですが、当時、私は彼と一緒に飲みに行った際に、とても有益な話を教えてもらいました。

大津君の会社も、元々はスポット型のビジネスモデルでした。しかし、そこから自社のサービスをツール化して月額のサブスクリプションモデルのような感じで展開することに成功したのです。この月額制のストック型への転換がとても有効だったという事を教えてくれたのです。私はこの話を受けて、Usertest Expressの月額制導入を決意しました。

ストック型への転換をスタート

一気に全てを切り替えてしまう事には少しリスクを感じていたので、現行のスポット型を残しつつ、新たにプレミアムといった月額制のプランをメインに据えて展開していきました。これが私のストック型へのビジネスモデルの転換のスタートでした。

これは本当に重要な転換点でした。今振り返ってみても 「当時はストック型にできていなかったからあんなにキツかったんだな」と骨身に染みて感じます。今では自分の中で当たり前になっている「安定経営にはストック型を前提にしないと話にならない」という事を本当に理解したのがこの時でした。

渦中にいる時はなかなか本質に気づけないものです。特に起業したばかりの頃は、目前の事に精一杯なのが当たり前です。そもそも“ストック型ビジネスとスポット型ビジネスの違い”という発想自体無いのが普通だと思います。その為、理由が分からず「なんで売上が安定しないんだろうな。結構良い事やってるはずなんだけどな」といった悩みに陥りがちです。安定した継続的な利益を得られない事に対して、「売り方の問題かな」「商品やサービスの問題かな」といった事をあれこれ考えてしまう訳ですが、原因はそういったものではなく“ビジネスモデルの問題”なのです

私の場合は、この事に気づいてビジネスモデルを大きく切り替えていった事で、その後の安定経営の道へと進んでいく事ができました。この“スポット型からストック型へのビジネスモデルの転換”は、経営者にとって本当に重要なポイントだと思います。

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