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【エッセイ】どなんどんなん

20歳を超えた人間なら誰しも一度は体験するであろう絶望がある。
過度に酒を飲み過ぎた翌日に来るアレ。
そう、二日酔い
酒を飲んでいる時間は、ただただ楽しい気分でジョッキを空にしていくのに、翌日になると自身の吐瀉物でトイレを不愉快な色に染めるあの体験をした者は「二度と、いや一生酒なんぞ飲んでたまるか」と己に誓ったことは少なくないだろう。
ともあれそんなことでいちいち己に誓いをたてているような人間は、大抵その日の夕方に缶ビールのプルタブを開けている。
「飲み過ぎは良くない」と学ばないから何度も誓いをたてることになるのだ。
かくいう私も、風が吹くより先に何処かへ飛んでいくほど軽い誓いを何度もしている部類の人間であり、この4連休中も「もうほんと、本当に今回ばかりは酒をやめる」と誓う出来事があった。

新型コロナウイルスが蔓延する昨今、大々的に県をまたいでの旅行へ行くのは憚れるわけで、連休というのは大変手に余る。
積極的に人と会うわけにもいかないし、家に籠っていても気が滅入る。
趣味が読書と飲酒、ネットサーフィンくらいな私が、この状況下で楽しめることといえば結局馴染みの店で酒を飲むことくらいなわけで、4連休の2日目は1駅隣の地元の駅まで酒を飲みに出掛けた。

「今日は沖縄料理が食べたい」
同棲している彼女から珍しくリクエストがあったので、沖縄料理屋へ行くことにした。
学生時代にバイトしていたホルモン焼屋の隣にあるその沖縄料理屋は、入ってすぐのところにL字型のカウンターがある。
「カウンターの席どうぞ」
女性の店員さんがカウンターへ促してくれて、その席に座った。
とりあえずオリオンビールと2〜3品適当に注文して、突き出しで出されたもずくを食べ始めた。
1杯目のビールを飲み終えて、泡盛を炭酸で割ったものとフゥチャンプルを楽しんでいる時に、突然同じ通りにあるお店の店長が入ってきて僕らの隣に座った。

「ここいるの珍しいじゃん」
「えぇ、まぁ。沖縄料理食べたいって言うんで」
「ふーん。うまいでしょ?」
「はじめて入りましたけどどれも美味しいです」
「だいたい料理楽しんだ?」
「えぇまぁ」
「じゃあそろそろ良いね。すいませーん。こいつにアレお願いします」
アレとはなんだろうか。
私の地元で言うアレとは大体テキーラのことを指すのだが、流石に沖縄料理屋にテキーラはないだろと高を括っている私の眼前に透明の液体が注がれたショットグラスが登場した。
「なんですかこれは」
素直に聞いた私に「飲めばわかるから」と、ショットグラスに似せた指をくいっくいっと動かしながら楽しそうに話す彼を隣に、とりあえず匂ってみると鼻に抜ける香りはまさしくアルコール除菌ジェルのそれだった。
思わず「バカか」と笑ってしまったが、頂いたお酒を残さないことが私の流儀なので、とりあえず舐めてみると喉が大火傷を負った。
「なんなんですかこれは!!?!?」
むせながら隣にいる彼に聞くと、メニューを指しながら「コレ」と笑った。
私が飲んだのはそう、コレである。

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『どなん 60度』
私の隣にいるバカな(敬意を込めてそう呼ばせてもらう)この男は、60度もある泡盛をショットで飲まそうとしたのだ!しかも一気に!
もうすぐ26歳にもなろうとしている私はお店に迷惑をかけるわけにいかないので、「これは一気に飲めません」と紳士らしくお断りをして、ロックグラスに氷を入れてもらってそちらに移し替えた。
ちびりちびり飲んでいる分にはおいしいお酒であることがわかり、そこからも何品か沖縄料理を楽しみながら泡盛をお代わりをして、お会計をもらった。

ここで終わりにしておけばよかったのだ。
この時点でだいぶ酔っていた私は、あろうことか近くに住んでいる友人を呼びつけ、隣のホルモン焼屋で2次会へ突入した。
ここでも多量の酒を体内へ流し込み、案の定2次会で幕が降りるわけもなく、再度沖縄料理屋へ戻って3次会を開催した。
今度はホルモン焼屋の店長がその店で休憩していたため、その隣に座って一緒に飲み始めた。
「おっ、きたか」
「お前、これ飲め」
にやりと笑って指さしたのは、ハブ酒。
…ハブ酒!!?
隣に座ったことを激しく後悔した。
店員さんが笑顔で注いだハブ酒を恐る恐る口に運ぶと、『どなん』より飲みやすかった(どなんどんなん)。
性懲りもない私はそこからまた泡盛をたらふく飲んで、17時から飲んでいたはずなのに気がつけば23時半を回っていた。
財布の中身もそこをつき(笑えない額を一晩で使った)、呼び出した友人に難癖をつけてそいつの金でタクシーに乗って家までどうにかたどり着いた。

読者諸君のご推察の通り、その翌日は大変なことになった。
頭痛、吐き気、胸焼け、下痢…想像しうる二日酔いの症状とそうでないものが一緒くたに襲ってきたのだ。
なすすべなく1日中ソファにうずくまり、トイレへ向かう以外はソファへ顔をうずめてうーうー叫ぶだけだった。
午前中がすぎてお昼ご飯も食べる気にならない私は、懲りずにまた誓った。
「二度と酒なんぞ飲むか!」と。
誓ってからの記憶はあまりなく、私は吐き気を抑えるように眠った。

その夜、元気になった私がビールのプルタブを開けたことは言うまでもない。

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