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怖くないけど怖がらせてしまった話

タイトルどおりなお話をひとつ。お盆だし。

話は独身の頃に遡る。季節は今頃の夏だった。
友人たちと会い夜の9時過ぎに解散となった。場所は某丘陵公園でみな車で帰宅するのだが、私を送る予定の子が都合でできなくなった。
私は「いいよ~タクシー呼ぶから~気にしないで♡」と言って彼らを送り出した。
その気になれば(ならないが)、遠足と思えば(思わないが)、自宅までは歩けない距離ではない。バスも最終便が出てしまったのでタクシーを呼ぶことにした。
人気もなく森に囲まれた丘陵公園はしんと闇に沈んでいる。レストハウスはとうにクローズしており、外灯と電話ボックスの灯りだけがこうこうと照らされている。
私はタクシーが坂道を上がってくるのをひとり待っていた。

しばらくして車のライトが坂道を上がってくるのが見えた。
あ!来た!思ったより早かったな~♪
運転手さんは中年の男性だった。私はタクシーの後部座席に乗り込み、行き先を告げる。
タクシーは走り出す。自宅までは幹線道路沿いにまっすぐいって、途中を右折するとすぐだ。
するとなんだか運転手さんの様子が変なことに気がついた。やたらバックミラーをちらちら見てはそわそわしている。はて?
運転手さんは意を決して私に話かける。
「お客さん生きてますよね…」
私、絶句のち一言「はい。。」
これは一体どういうことなのだろう?

私の一言で安心したのか運転手さんは急に饒舌になり、事の次第を話し始める。
「いや~よかった~お客さんが生きてる人で~」
ええ、生きてますとも。
「いやね、実はね~」と話してくれたのがこういうことだった。

運転手さんの仕事仲間が夜にタクシーを流していると、とあるところでひとりの女性が手を上げたので乗せた。行き先を聞いて発車する。
しばらくして、ふとバックミラーを見るとその乗客がいない!
あわてて車を停め降車して後部座席を確認するもいない!
運転手さんはパニック状態に。そんなことが数回続き、とうとうメンタルをやられて休職されてしまったそうだ。

この件の真相はすでに解明されていた。
騒ぎが大きくなって警察沙汰になり捜査が行われた。その女性はメンタルになんらかの不調があり、故意にこの騒ぎを起こしていたらしい。
つまりは、
◆夜の道路で手を上げる
◆タクシー後部座席に乗り込む
◆しゃがみ込んで運転手さんのバックミラーから自分を見えなくする
◆運転手さんが驚いて車を停める
◆その隙に車から降りる
ということを繰り返していたらしい。

やれやれ…。

そのときの私はというと今よりもっと細身で黒髪背中までのロング、生成りのリネンワンピ、白のパンプスといういで立ち。
まさに怪談の鉄板ではないか~!生成りのワンピは夜目には白く見えるしね。

というわけで怖くないけど結果的に人を怖がらせてしまったというお話。
あ、自宅にはその後すぐに無事に着いたよ。

おしまい。

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