
2023年度 滋賀医科大学 医学部 医学科 学校推薦型選抜 小論文 模範解答
問Ⅰ
【設問1】
医療人が働くときには、愛の能動的性質としての4つの要素の中で、他者を深く知ろうとする「知」が最も大切だと考える。その理由は大きく二つある。第一に、他者を知ることが他の愛の能動的性質の基盤となっていると考えるからだ。たとえば、課題文においても、人を尊重するには、その人のことを知る必要があるといわれ、その人に対する知がなければ配慮も責任もあてずっぽうに終わると指摘される。つまり、他者を知ることなく、愛するという能動的な活動はできないということである。したがって、患者やその家族を深く理解し、患者や家族の苦しみに寄り添おうとすることによって、初めて愛という能動的な活動が可能になると考える。
第二に、医療人が患者やその家族を深く知り、患者の気持ちや苦しみに寄り添おうとしなければ、医療はたんにケガや病気を治療するだけの作業に成り下がり、患者の痛みや苦しみを緩和するという医療やケアの本質を欠くと考えるからだ。したがって、患者やその家族に対して、医療人がその職務を全うに果たすための基盤には、患者やその家族のことを深く知り、理解しようとする姿勢があることが不可欠だと考える。(484字)
【設問2】
「人類愛」は、人々における生き方や考え方の違いによらず、どのような人に対しても愛を示すという能動的な性質を有していると考える。したがって、医療人にとっても「人類愛」は、自身とは異なる考え方を有する人や、罪を犯した人に対しても、また貧富の差などにも関係なく、分け隔てなく平等に医療を行う性質を持つものと考えられる。つまり、どのような人であれ、その人がケガや病気の治療や回復を望むのであれば、医療人はその人に患者として向き合う必要があるといえる。したがって、自身の考えや信条などによらず、どのような人に対しても公平・公正に医療を提供することが医療人にとっての「人類愛」であると考える。(290字)
問Ⅱ
【設問1】
自分の子どもに予防接種を打たない選択をする親が増えた理由は二点挙げられる。第一に、十分な人数が予防接種を受けていれば感染症は広がらないため、予防接種を受けない者は集団のなかに隠れて回りの者から守ってもらえるからである。第二に、ワクチンには深刻な症状も引き起こしうる副作用があり、ワクチンを打たない選択をすることによって、まれにある副作用のリスクを回避することができるからである。
予防接種を受けない者が増加することによって生じる社会的問題として、集団免疫の崩壊が指摘される。というのも、白血病などの持病を抱えているために予防接種を受けることができない者も多数存在し、集団免疫が機能しなければ、予防接種を受けることができない者の感染症のリスクが高まり、生存の危機にさらされるからである。したがって、著者は予防接種を受けない者が増加し、感染症が拡大することに危惧を覚えている。(385字)
【設問2】
滋賀医科大学が入学者に対して各種の抗体価検査や予防接種を行うことを定めているのは、医療を志す学生が集団免疫の形成に貢献することや、以降の実習などにおいて、予防接種を受けることのできない患者たちに学生が接する際に、学生から患者への感染を防止するためであると考える。なぜなら、医学生であれば患者と接する実習の機会は不可避であり、予防接種を行うことによって学生から患者への感染を防ぐことができるからである。
また、医療従事者を対象に予防接種を行うことの医学的意義は、医療従事者自身が感染源となり、患者への感染リスクを高めることを防止する目的や、医療従事者が感染症に罹患し、医療に従事できなくなることを防ぐことにある。したがって、何らかの感染症の発生や拡大時には、医療従事者や患者への感染を防止することによって、持続可能な医療体制を確保するために、医療従事者を対象に予防接種を行うことが必要だといえる。(396字)