#安楽死について

 進行性の難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後靖彦参院議員は「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何よりも大切」と訴えた。

 ALSを患う林優里に依頼され薬物で殺害したとして、医師2人が嘱託殺人容疑で逮捕された。

 彼女は生前、ブログやTwitterに安楽死を望む書き込みをしていた。医師はSNSを通じてやり取りを続け、計130万円を受け取った。

 2人の医師は女性の主治医ではなく、直接会ったのは、事件当日だけだった。知人を装って女性宅を訪れ、10分以内に立ち去っていた。

 女性の病状を継続的に把握していたわけではなく、気持ちに寄り添っていた形跡も窺えない。容疑が事実だとすれば、命を軽視していると言わざるを得ず、医師として許されることではない。

 医師の1人はネット上で安楽死を肯定する発言をしていた。事件に関するSNSのやり取りを消去するように女性に指示していたという。もう1人の医師は、医師免許を不正取得した疑いも出ている。

 過去にも、1991年の東海大病院事件や1998年の川崎協同病院事件など、安楽死を巡る事件はあったが、終末期患者を病院で治療中に起きたものだ。今回は死期が迫っていたとは言えず、治療も施していない。全く状況が異なり、安楽死や尊厳死の法整備を巡る終末期医療や死の自己決定についての議論に直接結びつけるべきではない。

 ALSは根本的な治療法はまだなく、精神的な苦痛を和らげる支援の難しさが浮き彫りになっている。

 日本では、薬物投与などで患者の死期を早める「積極的安楽死」は認められていない。ただし、東海大病院の医師を殺人罪で有罪とした横浜地裁判決が一定の要件を示している。

①「耐え難い肉体的苦痛がある」②「死が避けられず死期が迫っている」③「肉体的苦痛を除去・緩和する他の方法がない」④「患者の意志が明らか」の4点である。

 オランダ・ベルギー・スイス・アメリカの一部の州などは、病気が治る見込みがない人が望んだ場合に、医師が自ら薬物を使用、あるいは処方して死に至らしめることを認めているが、4要件と同様の条件を設けている。

 患者の生命・健康に深く関わる医師には、高い倫理と人権感覚が求められる。難病患者の「生きたい」という思いが、封じ込められるような社会であってはならない。

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