酔っぱらいが



先週の金曜日。
推したちのグループが2日間のリレー配信を始めた。

個人枠・ユニット枠・全員集合の公式枠と2日間、度の時間に開いても誰かしらの配信が見られる天国のような企画だ。

もちろんぼくも参戦し、無事2日とも寝ずに完走した。

1日目、夕方から始まってそれから48時間。
折り返し初の推しの個人枠はぐでんぐでんに酔った状態で始まった。


「枠取りましたーいどうしてくださーーい。2人は追い出しましたー。」
間延びした声で話す彼にその前のユニット枠で盛大に酔って人の家のトイレにゲロをかましていったメンバーのことを尋ねるリスナー。
それに楽しそうな声で笑いながら「もう絶対家に入れない」と宣言する彼に笑わされていた時だ。

突如カメラがオンにされ推しの顔面が思いっきりリスナーたちの画面に映し出された。
慌てて事故っていることを伝えるも「今日はもういいのー」とへにゃへにゃのまま画面に向かう。

彼は自分の顔にとてつもないほど自信が無いので顔を出さずに活動してきたのだがそれが見事に打ち砕かれた瞬間だった。

それまでも数度、一瞬の事故はあったが見逃す人が多くてそこまで彼の顔は他リスナーには認知されていなかった。
中には画面収録をしてまでSNSに晒す害悪もいたが彼はそれすらネタにしてくれている。

しかし、2日間のリレー配信ともなればほかのメンバーのリスナーも見てくれることが多く、推しのリスナーの「wwwwwwww」「事故ってて草」「むしろ事故起こしに行ってる」などのコメントに紛れて「初めて顔みた」「ライブと顔が違う」「普通に顔出せばいいのに」という推しの配信には似つかわしくないコメントが並んだ。

数分そのままへにゃへにゃと話していたが急に我に返ったのか「え、なんでカメラついてんの…」と怪訝そうに画面を見つめる彼に今までの経緯や発言をサラリとまとめて話してくれるリスナーが現れ、彼はみるみる顔面蒼白になっていく。

「他リスナーいんのに…」「冷静に意味わからんこと喋ってたよ」「酔ってんなら早めに次取ってもらって寝な」と気遣うコメントに全然記憶が無いと話す彼がとても心配になった。

正直言わなくていいことも数個あった。
聞きたくなかったことはなかったが、他リスナーの前でそれは理解されないぞ、という発言もあった。
それでも久しぶりに、事故でも顔が見られて嬉しかったし楽しそうに話す姿が見られて、コメントでだが会話もできて嬉しかった。
配信の最後を彼はこう締めた。


「今日グダってごめんね。多分嫌われても仕方ないこと言ったと思うし、この配信で降りるやつもいると思う。それでもいいよ。めちゃくちゃなこと言って混乱させて、それでも好きでいてくれるやつはありがとうだしすごいと思う。ねえねえ、…明日も大好きだよ。」


破壊力。画面と対峙しながら、ど深夜にも関わらず大きな声で叫んでいた。

父親が部屋のドアを開けた。うるさいと言われた。
そんなのも耳に入らないくらい、推しからの好きは効果抜群で、今週安全に生きられた。

ぼくが飛ばした「死にたかったけどこの配信見てそんなの馬鹿らしくなったww」というコメントにヘラヘラと笑いながら「やだ死なないでもっと会いたい!」と軽やかに言ってくれた。その軽さが重い気分を飛ばしてくれた。

リスナーの誕生日だからと無理をしてクライナーを三本追加で開けてくれた。
酔いのせいで右も左も分からないような状態でハッピーバースデーを歌ってくれた。リスナーにもおめでとうって言ってあげな!と声をかけてくれた。

そんな推しが最終の全員集合枠で事故っていた事をいじられて「もう俺事故るキャラで行くからいい!」と開き直っていた。
じゃあ今ここで顔出せと言い出すメンバー、俺に飛び火させないでくれよと危惧するメンバー、素直に心配してくれるメンバー、それぞれだったがみんな「お前がいいならいいけど」と言ってくれていた。
良くないとは思うんだが、推しはそれでも楽しそうに笑っていた。

「みんなが笑ってくれるなら別に顔面だろうがなんだろうが晒すんだけど。」涼しい顔でそう言う彼には敵は無いのだろうかと思った。

彼は自分の楽しいより他人の楽しいを優先する人だ。
「みんなが笑ってくれるなら」「お前らが行きたいって言うから」「これ美味しいからみんなにもたべなって言いたくて」「楽しい?よかった。俺も楽しいよ。」そんな幸せな言葉を沢山吐き出してくれる。

ぼくもあんなふうに関わってくれる人を笑顔にしたいと思ってはいるんだがどうも上手くいかない。


ねぇねぇ、大好きだよ。




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