見出し画像

ドキドキの赤ちゃん連れ乗車。まど・みちおの「おみやげ」を携えて行こう。

詩のソムリエが子育てのなかで考えた、詩のはなしをちょこっと。赤ちゃんとはじめて電車に乗るときは緊張しますね。そんなとき、赤ちゃんの笑顔をよんだ「おみやげ」(まど・みちお)という詩はいかがでしょう?ぽっと心があたたかくなり、赤ちゃん連れの外出を後押ししてくれる詩です。

初めてのお出かけは緊張の連続

あかるい初夏。はじめて、赤ちゃんとわたしで電車に乗ったときの緊張をよく覚えている。息子は3ヶ月。産まれた大学病院の健診に行くための、20分ほどの道のり。

泣いたらどうしよう。そればかりが心配で、おしゃぶりを取り出しやすいようにカバンの外ポケットに入れた。一応、ハリネズミのマリーちゃんも、はらぺこあおむしの布絵本も持っていった。プシューと重い扉がひらくと、静かな大人たちがたくさん乗っている。いつもどおりの風景なのに、今日はいやに緊張する。席にちんまり座った。

泣いたらどうしよう。おしゃぶりをしゃぶらせて、あまりにひどく泣いたら手前の駅でも降りよう…そんなことを頭の中でシミュレーション。

ふいに、わたしの胸に抱かれた息子が、右どなりの乗客ににこっと笑いかけた。そして、今度は左どなりの乗客のほうを見てニコニコ。ふと見渡せば、まわりの人たちが笑顔で息子を見ていることに気づいた。「笑ってくれた!」「かわいいねぇ」そんな声も聞こえてくる。

わたしが勝手に張り詰めているように感じていた電車の空気は、ほわっとそこだけ明るんだかのよう。

それだけのことが、涙が出るほどうれしかった。

赤ちゃんの笑顔を胸に抱えて

「ぞうさん」でおなじみの、まど・みちおさん(1909-2014)による「おみやげ」は、そんな風景を切り取ったような詩だ。

「さっき電車の中で/知らないよその赤ちゃんが/笑いかけたのだった」という小さな出来事で詩ははじまる。うれしくてたまらないような笑顔。

その笑い顔を
いつのまにか 胸にかかえていて
それで 夜道の足もとを
てらすようにしながら
わたしは急いでいるのだった

父がいなくなった家で
ひっそり待っている母に
そのおみやげを
はやく見せてあげたくて

まど・みちお『まど・みちお人生処方詩集』(平凡社)

思いがけず出会った「よその赤ちゃん」の無垢な笑顔を、「おみやげ」としている詩の心がなんとも優しい。ぽっと灯りがともるようなこの詩。

この詩を読んで、うれしい気持ちが胸に広がった。子どもと電車や飛行機に乗るときは、いまだに緊張する。迷惑に思う人もいるだろう。それでも、うちの子の見せる笑顔を「おみやげ」に、帰り道を「てらすようにしながら」急ぐひとも、いるかもしれない。そう思うとすこし心が軽くなるのだ。

息子は10ヶ月になる今も、電車で出会う人出会う人に笑顔をふりまく。その笑顔を向けられたひとは、「うちにも孫がいて…」など目尻を下げながら話しかけてくれることも多い。

わたしも子育てが一段落する頃には、電車のなかで出会うよその子の「おみやげ」を胸に灯しながら、夜道を帰るだろうか。

***
最後まで読んでくれてありがとうございます!よかったら「スキ」(♡マーク)やコメントをいただけると励みになります。(「スキ」はnoteに登録していなくても押せます◎)

今日もすてきな一日になりますように。
詩のソムリエ Twitter  公式HP

これまでの「こどもと詩」シリーズ

① 詩のソムリエ、母になる (新川和江「赤ちゃんに寄す」)
② 鯉のぼりの、その先(まど・みちお「うさぎ」)
③ 生まれたての君(ウィリアム・ブレイク「行きて愛せ」)
④ 世界に用意された椅子(新川和江「わたしを束ねないで」)
⑤ 淋しいという字(寺山修司「Diamond ダイヤモンド」)
⑥ 詩のソムリエと子守唄(北原白秋「揺籃のうた」)
⑦ 出産の勇気をくれた歌(阿木津英「産むならば世界を産めよ」)
⑧ 思わず涙ぐんだ、「人生が1時間だとしたら」(高階杞一「人生が1時間だとしたら」)
⑨ 泣き声は近所迷惑?山村暮鳥の詩を読んでみよう(山村暮鳥「こども」)

お知らせ:公式LINEはじめました

noteの更新や、心がほっとする詩をお届けします。ぜひ友だち追加していただけるとうれしいです!

https://line.me/R/ti/p/@064uihcq


そのお気持ちだけでもほんとうに飛び上がりたいほどうれしいです!サポートいただけましたら、食材費や詩を旅するプロジェクトに使わせていただきたいと思います。どんな詩を読みたいかお知らせいただければ詩をセレクトします☺️