恋人のタタキ思いて喉鼓(のどつづみ)
酒好きの僕らは高知ひろめ市場へ旅に出た。
そして鰹のタタキの美味さに叩きのめされた。
僕らの街の鰹のタタキは、大根のつまを血で赤く染める「チープな酒の肴」の代表だ。
ところが、さすが高知の鰹のタタキは絶品で、ニンニクと塩で食べるそれは、ステーキにも引けをとらない。
鰹も恋をするのかな
切り身に裂かれた恋心が赤く光っている
鰹も眠れぬ夜があるのかな
藁に焼かれた恋心が恥ずかしそうだ
鰹も嫉妬をするのかな
むき出しになった恋心にレモンがしみる
喉をすり抜け酒に流され
鰹は鰹として泳ぎつづけている
僕の胃袋の中で
まだ力強く
恋心を燃やしている
僕は早くホテルに戻りたくなって。
彼女を早くタタキにして食べてしまいたい。
そんな気持ちをぐっと抑えて、酒を飲み続ける。
残念ながら
彼女は僕より遥かに酒が強い。
僕は美味そうに酒を飲む彼女の喉元を眺めては、喉鼓を鳴らすのだ。
ひろめ市場の夜は長い。