16頁 「待ち遠しい」
Ⅰ
今から振り返ると
それは虹のようなものだった
思い出せるのに
本当にあったのか
どこかあやふや
触れたら 雨上がりのような余韻が眩しい
それは待っているのか 過去の気持ちの再来か
未来を待たなくなるほど それは色あせる
過去を振り返るほど 今は置き去りになる
そう思ったら あの時かかっていた虹は
まるで魔法のようだった
風が次の季節の香りがして
胸の奥で何かささやく
待っているだけで 何が変わるの
待っているこの時間が 心の中に何か新しい風を起こす
私は木の葉が舞い上がって
新しく訪れる空を 待っている
Ⅱ
「待ち遠しい。」それはドキドキとワクワク
その後ろに"切ない"が隠れているそれは混じり合って放っておけない感情
楽しみにしている予定があって(その日を指折り数えているとき)
会いたい人がいて(その人の姿をまぶたの裏に思い描くとき)
好きな物語の続きが読みたくて(何度も今月のぶんを読み返しているとき)
それはじれったくて胸の奥がむずむずとするような時間
何かを待ち焦がれている時間はとても幸せな瞬間
胸をつかむものと出会えているという証拠
年齢を重ねていつからか以前ほど持てなくなっている「待ち遠しい」
後悔に囚われることの方が増えたあの時に戻って過去を変えられたら
この先に待ち遠しく思えることなんてあるだろうか
待っていれば楽しいことが降ってくる魔法はもう自分にはかかっていない
胸の隅っこに眠っていた「待ち遠しい」の記憶がコトリと音をたてて動く夏
眩しい空も夕立の跡の匂いも夜の窓の外から入ってくるぬるい空気も
「ほら、今年は何か待ち遠しい約束は無いの?」と胸をくすぐっていく
「ないんだよー」ふてくされて寝転がったタオルケット
新しい出来事が平凡な日常を簡単に変えてくれるのをどこかで待っている
魔法なんて無いって気付いてしまったけれどどこかでまだ待っている
待ちぼうけで「待ち人来ず」のまま終わるかもしれない夏
それでも待たずにはいられない人生
魔法が解けるのは大人になった証拠
魔法は日常でなくて心の方がかけるんだって本当は知っていた
心が震えて放っておけなくて
手を伸ばしたらいつかの夏の記憶
あのメロディーは 心が世界にかけた魔法の 一節だった
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