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ショートストーリー:いつまでたっても子供

海岸はひっそりしていた。連休明けの平日、肌寒い、どんよりとした空、雨が降りそう、そんな条件が重なったせいかな。回りには誰もいない。おかげで人目を気にせず、人との距離を考えずに自由に過ごせる。
私だけかと思っていた砂浜のずっと先に一人、腰を曲げて砂浜をみつめている人が見えた。そうか、貝殻を拾っているんだ。つられて足元を見ると貝殻がいっぱい。子供の頃、家族で海水浴に行っても海にはいるのが怖かった私は貝殻拾いばかりしていた。忘れていた記憶がよみがえった。

足元の貝をひとつ拾う。
きれい、うずまきもよう。
もうひとつ、またもうひとつ、
いつの間にか腰をかがめて貝殻拾いに夢中になっていた。
突然、それまで穏やかだった波がざぶーんと足元に寄ってきた。慌てて逃げる。
一瞬で大人に戻った。
「子供みたいに貝殻拾っていた」
手のひらには形のよい私好みの貝殻がいっぱい。

子供の頃に拾った貝殻は、その後どうしたんだっけ? 家に帰ると瓶に入れたところまでは覚えている。毎年海水浴に行って貝殻を拾っていたのに、貝殻の入った瓶は増えなかった。いつの間にか捨てていたのかな。

大人になっての貝殻拾いって楽しい。
ものすごい数の貝殻の中から、自分が好きな形や色の貝を探し出すって行為。
「きれいな貝、どこにあるかな」
期待しながらお宝を探し続ける。
「大きくてきれいな貝、み~つけた!」
って拾ってみたら、欠けていてがっかり。海へポイ。ポトンっとちっちゃな音をたてて海に飲み込まれていった。そのポトンをまた聞きたくて、小石を拾って海へポイ。今度はボットン。う~ん、なんておもしろい音なんだろう。

目線を海に戻したら、遠くの空がオレンジ色になり始めていた。

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