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ぐずぐずぽこねんひとりたび #note酒場

正直にいうと、今年のnote酒場には行くかどうか迷っていた。

理由はいろいろある。

たぶん、去年のnote酒場が自分の中で「よすぎた」こと。それから1年近く経つなかで、自分のnoteに対する向き合い方が変わってきていること。SNSで人とつながること、つながらないこと、距離感と創作について自分なりのバランスを思いあぐねた時期があったこと。などなどなど。

そんな自分が今年のnote酒場を純粋に楽しめるのか不安だったし、加えて、高い熱量を持ってあの場に集ってくる他の方々に、意図せず不快な思いをさせてしまわないかも不安だった。会いたい方が何人もぽこぽこと浮かぶ一方で、いまの自分が会えるのか、会っていいのかとぐるぐるしていた。

でも数ヶ月前、ハネサエ.さんが「今年も行くよね?」と声をかけてくれて(そう、去年ハネサエ.さんとわたしは、それぞれ新幹線と飛行機の距離からスタッフ参加したのだ。当時は日常系のnoterってまだまだ少なくて、しかも母業休んで遠方から参加したのはたぶんわたしたちだけだった)、やっぱり行こうかな、と思い始める。

会いたいひとたちがいる。それは間違いない。ただあれだ、今の自分に極めて自信がないのだよ、などとぐずぐず思ってみたけれど、よく考えたら自分に自信がないのはいつものことだった。noteまわりのひとたちには、きっと等身大のままで、ぐずぐずしたわたしもそのまま、ぐずぐずしているねえ、と言ってもらえればそれでいいのかもしれないな、と思った。

なんとか決意を固めて参加表明したものの、9月は娘の入院関連でほぼつきっきり。心身ともにエネルギーをすり減らし、気持ちがまったくnote酒場へ迎えずにいた。ほんとに行けるのか、わたし行くのかnote酒場。だいじょうぶなのか、いろいろ。ハネサエ.さんやゆみっぺさんと宿泊の相談をしつつも、どこか現実味を帯びずにふわふわとしていた。

それでも、ちょうどnote酒場の数日前から娘もようやく保育園に復帰。少しずつではあるが、ゆっくりと日常のリズムが戻ってくる感覚がした。

ああ、どうなるかはわからないけれど、とりあえず行けそうだ、note酒場。そしてこんなぐずぐずしたいまの自分だけれど、いま行かないと絶対に後悔しそうだ、note酒場。そんな確信をもって、ようやく航空券をポチッとする(でも数日前から軽く風邪気味になり、体調までぐずぐずだった)。

当日の朝、泣くのをグッとこらえたような表情で「またね……」って言う娘を夫に託して、わたしは東京へ飛んだ。今年もちょっくら、行ってくる。

結論から言うと、今年もnote酒場へ行くことができてほんとうによかった。

いや、「よくなかった」となるとは最初からあまり思っていなかったのだけれど、主観的な去年の「よかった」を越えられるのか、みたいな、自分の中だけの妙な不安があったのだ。

その点に関していえば、去年より上とか去年より下とかそういう話ではなく、去年とはまた違った形で「行ってよかったなぁ」としみじみ思った。違う楽しみ方ができたような気がした。

去年のわたしは「いつも画面の向こうのひとたちに初めて会える」ことに興奮し、ひたすらに浮かれてずっとドキドキしていて、完全に1日中ハイテンションだったと思う。変なイベントスイッチが入っていて、普段の自分の5割増しくらいで、初対面のひととも臆せずぐいぐい話していた気がする。

それとくらべると、今年はすでにお会いしたことのある方も結構いるという状況で、かつ直前まで身も心もぐずぐずしていてハイテンションになりきれていなかったことが逆にプラスに作用したということもあり、気持ちがわりと普段着のままで、いろいろな方とお話することができたと思う。

すべてのエピソードを書きたい、と思いつつ、ほんとうに書いているとスクロールする指が疲れて絶対に最後までたどりつけない量になるので、ここはぐうっっ、と我慢して、ハイライトでお届けする。つまりほんの一片。

■ 会場に入ったら、去年一緒にチケット受付をやったお ゆみちゃんに受付で会い、一年ぶりの再会を喜ぶ。他にも去年のnote酒場で初めてお会いしたサカエ コウ。さん、ハネサエ.さん、うさこさん、厨房でもくもくと働くナースあさみさん、スープ作家の有賀薫さんなどの姿を目にして「か、帰ってきた……」という気持ちがぐぐぐ、とこみ上げる。

■ もう会った気になっていたくらいの距離感だけど実はまだ会ったことがなかったゆみっぺさんに、昼の会場入り直後に初めて会う。思わずハグ。

■ いったん気持ちを落ち着けよう……、とボードゲームに参戦。ミヤザキユウさんの新作、『コトバグラム』のプロトタイプ。例えば「『片思いの相手』に、『映画に行こう』と誘うのは軽いか重いか?」について推測するなど、自分以外の人の”ことばの重さ”について当てるゲーム。これはボードゲームをしながら相手の人間性がいつのまにかわかってしまう、という大変おそろ……おもしろいゲームだと思った。はじめましての人が集う、こういう場にはとてもぴったりなゲーム。

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一緒にプレイしたメンバーに偶然クニ∞ミユキさんがいて、おお!となる。また同じくメンバーだった「週刊まえだー」アカウントの方に、「あ、週刊まえだー、知ってます!」と言うと、そう言われることは多いらしく「知名度は高いのにフォロワーが少ない」と笑っていた。フォローした。

■ 昼のテラスにはお子さんのいらっしゃるnoterさんたちが大集合していてすばらしく和んだ。お会いしたいと思っていた方々にここでドドド、とお会いする。ありのすさんやルミさん、瑞季 マイミさん、マリナ油森さん、瀧波わかさんとははじめまして、田中裕子さんやヨリさん、まつしまようこさん、ゆきなつさんとは再会を喜ぶ。多くの方が娘の入院・手術の件を気にかけてくださり、ほんとうに頭がさがる思い。心情だだもれ入院日記でご心配おかけいたしました。順調に快方に向かっており元気に過ごしています。

■ そんな女性陣の奥から「ぽこねんさ〜ん」とお茶目にうちわを降りながら声をかけてくださる男性の方がいて、誰かと思ったらまさかのilly / 入谷 聡さんでびっくりした。想像より500倍カジュアル。前々からお会いしたかったおぎさんとも、昼の部が終わるまぎわで少しだけお会いできてとても嬉しかった。あまり時間がなかったから、またゆっくりお会いしたいなぁ。

■ マイミさんが、最近わたしが書いていたnoteになぞらえて「浅漬けっていいですよね」って言ってくださって心の底から励まされた。また過去に書いたちょっと重めなnoteのことまで覚えておられて話題にしてくださって、とてもじーんとした。一般受けしない内容だけれど、書いてよかったなあ…。マイミさんありがとう。マイミさんはね、ふわぁっとした穏やかなオーラが漂っていて、でも芯がすきっ、と通った女性な気がした。

ねおさんが想像以上にねおさんだった。ちょこっとご挨拶しただけだったので、もっとあの作品が好きとかお伝えできればよかったと後悔。エッセイ漫画の「そこ切りとるんだ!」みたいな切りとり方がとても好きです、と今さらここに書いておく。

竹鼻さんはなぜかわたしのことをめちゃめちゃ心配してくださっていた(笑)。きっと、ここのところのぐずぐず具合がバレていたに違いない。ほら、だからぐずぐずしていても別に大丈夫なんだと思った。どうせ皆さまには全部バレている。でもぐずぐずしていたおかげで、竹鼻さんと落ち着いてお話できて嬉しかった。ただ超熟愛について語り忘れたし、育児の話も手足口病の話もしてないし、まだまだお話ししたい。

■ ルミさんに「有料マガジンになってから、なんか伸び伸びしてるな〜って思う」ってにこやかに言ってもらって、救われたような気持ちになる。ルミさん、ありがとう。ルミさんは帽子が似合っていて、ひと目でルミさんだ!とわかった。にこにこっと笑う、笑顔がとっても優しくて素敵な方だった。

ふみぐら社さんと初めてお話しした。わたし、アカウント名が「ふみぐら生活」だったときから勝手にふみぐらさんのファンだ。一時期noteをまったく書かれていなくて、もう戻ってこないのかな……と思っていたらいつのまにか復活しましたよねという話をふったら、復活のきっかけとして浅生鴨さんのインタビューをあげられていて、お互いに「あ!」となった。そういえばふみぐら社さんもわたしも、それぞれ去年、noteに浅生鴨さんのインタビュー記事をあげている。それぞれにまったく違う描き方をしているのだけれど、話してみると、一見ゆるっとした鴨さんの中に潜む鋭さとか、感じているところには確かに重なるところがあって、それがとてもおもしろいなあと感じた。地方暮らし、書くこと、まだまだいろいろ伺ってみたい。

大旅そばさんが夜の部から来てくれた。来た直後、とりあえずビールを……とお守りみたいにビールでエンジンかけようとしているようすが微笑ましかった。そばさんはお洒落。アイコンとのイメージにギャップを感じる人も多いっぽい。るんみちちゃんが「えー! やり直し!」って言っていたのが密かにツボだった。

■ トイレに行こうと出入り口へ行ったら、ちょうどまこさんが来たところだった。「わー!」と言って思わずハグする。まこさんのブルー・グリーンのようなワンピースがとても素敵だった。

■ ここまで書いてきて、少年Bさんや仲高宏さんのことを書いていないことに気づいて唖然とする(今)。なんというかわたしの中でおふたりは安定感抜群すぎて、すべての場に溶け込みつつ、かつ常に安心できる存在感を放っているというスーパーな感じだった。たぶんみんな心の拠り所にしていたんじゃないか。おふたりの笑顔は世界平和に通じていると思う。

■ わらしべ企画では『小林賢太郎戯曲集 STUDY ALICE TEXT』を置いてきた。交換したのは、同じタイミングでその場にいらした大麦こむぎさんが置いた、いしいしんじの『トリツカレ男』。おすすめコメントに「ひらがな、片仮名、擬音の天才です」って書かれていたのがとても好きだと思ったから。こむぎさんとはこれまでお互いあまり知らずにいたのだけれど、このコメントで推してくれる方ならこれから絶対好きになってしまうだろうなあと一方的に思った。

■ そろそろお開きの時間、Ato Hiromiさんから日本酒をちょこっといただく。風邪気味だからこの日はアルコール控えぎみだったのだけれど、Hiromiさんセレクトのお酒は文句なしにおいしかった。さいごに頂けて幸せ。Hiromiさんは笑顔のほっぺの感じがとてもかわいい方だった。

結論、会場にいる間は、ぐずぐずなんてしている暇がなかった。とても楽しくて、ありがたかった。

宿に帰る。

ゆみっぺさんとハネサエ.さんとわたしと、二段ベッド2つの、修学旅行みたいな部屋で延々話した。

noteのこと、仕事のこと、育児のこと。あと個人的には、ゆみっぺさんの外国ひとり旅の話を聞けたのもとても楽しかった。

こうして同世代だけで集っていると忘れそうになるけれど、普段はみなそれぞれに、まったく違う場所で、小さな子どもたちをど真ん中に据えた日々を必死にぐるぐると回しているんだなあ。そう思うととても不思議な心持ちで、とても感慨深かった。母たちの逃避行だね、と言って笑った。

母たちはとりとめのない話をしながら、存分に夜更かしをした。

ハネサエ.さんが「寝たら今日が終わっちゃう」といって、みんなでああそうなんだよ、もったいない、もったいない、って言いながら、限界までしゃべりつづけてなんとか眠った。

朝起きたらなんと9時を過ぎていた。

こんな時間までぐっすり寝たの何年ぶりだろうね、って皆でまた笑った。

贅沢すぎる朝だった。

東京駅まで移動して、新幹線組のゆみっぺさん、ハネサエ.さんと別れる。

わたしはバスで成田空港へ向かう。行きはスピード重視で羽田便にしたけど、帰りは安さ重視で成田からの格安航空便。

東京駅前で空港行きの直通バス待ちの列に並んでいると、いろんなひとたちのいろんな言語が飛び交っていて、もはや薄れつつある、わたしの中の旅の記憶をこしょこしょとくすぐる。なつかしさとうらやましさと、時が経ってしまったなぁという切なさと。

座席は外国のおじさんが隣だった。たぶんわたしの両親よりちょっと若いくらいの。

出発して道中を半分以上すぎたころ、前列にいた1、2歳くらいの子がぐずりだし、おじさんがそれを見てこっそり笑って、ついでになぜかこちらを伺うので、わたしもおじさんとちらっと目を合わせてくすりと笑った。

それをきっかけに、ちょっとだけ話しはじめる。

おじさんは欧米っぽい風貌だったけれど、フィリピンのひとだった。日本には出張で来たらしい。わたしに”Student?”と聞くので苦笑する。2歳の娘がいてね、というと、「誰に?君に?おいおい、18歳くらいかと思ったよ」って真顔で言う。あはは、と笑いながら、このやりとりなつかしいなあと思う。旅をしていたころから10年近く経つのに、チビで童顔のわたしは、おとなの女性の気品とか落ち着きって未だにまったく醸せていないらしい。たぶんわたしはこのまま、子どもっぽいおばあちゃんになるんだろう。

おじさんは日本へ来る前に、アメリカに家族旅行をしていたらしい。自ら、スマホで家族旅行の写真を見せてくれる。家族は先に帰り、自分だけ仕事の関係で日本に来たそうだ。長崎、福岡、栃木。今日フィリピンに帰るという。君は?と聞かれたので、わたしは今日福岡に帰るよと答える。東京にはよく来るの? うーん、関東出身だからこっちには来るけど、いつもは家族と一緒なんだ。だから、ひとりたびはめずらしいことなんだ。超レアなの。

べつに話しても話さなくてもいいようなそんな話を、静かなバスのなかで、お互いにボソボソとする。きっとこの先、このおじさんと会うことはないだろう。SNSだって交換しないし、本当にこの場かぎり。ただ偶然隣に座ったから、お互いの人生がある一点だけちょっと触れたから、ことばを交わしているだけ。

その感覚がとてもとてもなつかしくて、ちきしょう、こんなん、もっと旅したくなっちゃうじゃんか、と思う。

バスは第3ターミナルにつく。おじさんは第1ターミナルだというので、「じゃ、わたしここなので。話せて楽しかった、よいフライトを」なんていかにもなセリフをはき、ふっ、いい別れ方ができた、なんて悦に入る。

……のも一瞬。

なんとわたしはターミナルを間違えていた。一時期ジェットスターに乗りすぎて、完全に「格安航空といえば第3ターミナル」と体にしみ込んでいたのだけれど、そういえばピーチ航空は第1ターミナルだ。

あーあ。あのままおじさんと話していれば、スムーズに第1ターミナルまで移動できたのに。「ようしうまくいった!」なんて思うときは、たいてい何かが失敗しているものだ。

自分のこの性質には、もうだいぶ慣れてきてはいる。

飛行機の中で、note酒場のわらしべ企画でもらった『トリツカレ男』を読んだ。

最初は少し世界観に入れずにいたけれど、それでも地道に読んでゆくと、ああ、なるほどなあ、と思わされるうすい層が何層にも積み重なっていて。読みすすめるほどに惹き込まれた。

「まもなく着陸体制に入ります」

そんな頃にちょうど読み終える。終わり方がとても好きだった。

家に着いてガチャリとドアを開ける。

「ただいまー!」

娘があわてた声で「まま!」と言いつつ、玄関めがけてかけよってくる。

おかえりなんてすっ飛ばして、「まま! いっしょに、あそぼ!!」。

うん、まずはお母さん、靴を脱ぎたいと思うんだ。

翌朝。食洗機にこびりついた何かの葉野菜のかけらをこそげ落としたり、排水口の生ゴミを捨てていたりしたら日常感がものすごい勢いでわたしを包んでいって、すべては夢だったんじゃないかという感覚におそわれた。

いやいや、あれは現実だったのだ。そんな手がかりがほしくて、こうして記憶を書き残す。誰かと重なった記憶の一片をたしかめたくて。

わたしは確かにnote酒場というあの場にいたし、きっと普段オンライン上でしか触れることのできないたくさんの「あのひと」も、あの瞬間はあの場で時間を共有していた。

バスで隣のおじさんと人生の一点が触れ合ったみたいに、あの場ではたぶんみんなと、共通の点を過ごしていたよねと。

そこからまた、それぞれの日常へ散ってゆく。

つながり続ける縁があることはとてもうれしいし、励まされるし、心からありがたい。でも一方では、まあ、ずうっとつながり続けなくてもべつにいいよなあ、と思う自分もいる。

あのバスのおじちゃん、いまごろ元気にしているかなあ。家族のもとに帰っておいしいごはんを食べているかな。バスでひどい童顔の日本人と会ってさ、なんて笑っていたりして。

一点で触れ合っただれかのことに、そうやって勝手に思いを馳せているときもまた、けっこう幸せだったりするから。

それにたぶん、いったん離れたりしても必要なタイミングではめぐりめぐってまたご縁があったりするものだしね。

だからなんだろう、なんだろうねえ。自分もふくめてまあみんな、マイペースにやればいいんじゃないかと思うわけで。こうじゃなきゃいけないとかさ、たぶんないんだよ。

あーあ。

べつにうまいことも言えず、結局最後までぐずぐずだけれど、まあそれでもいいのかなあ、なんて思う。

とりあえずあの「点」を共有できて、わたしはとても楽しかった。

そしてまた、旅がしたいな。


(おわり)


P.S.さいごになりましたが、運営スタッフのみなさん、準備から本番まで、ほんとうにありがとうございました。どんなパーティより美味しい食べものや飲みもの、かわいい名刺にうちわ、いろんなオペレーション。ただただ感謝。おつかれさまでしたー。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。