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1年ぶりのダウンジャケット

数日前の暖かさがうそのように、今朝はまたぐっと冷え込んだ。

娘を保育園に送ろうと玄関まで出て、いつもの上着を着せようとして「いやまてよ」と思う。あわててマンションのベランダに出て外気をチェックしてみると、こりゃ冷たい。自転車に乗るなら、厚手の上着がいいな。

早く外に出たくて「うーうー」抗議する娘をちょっと待ってねといなしながら、部屋の奥にある衣装ケースをぱちんと開けて、去年買った娘のダウンを1年ぶりに引っぱり出した。

* * *

胸もとに花柄の刺繍がついた、やさしいピンクベージュのダウン。

1年前、外出のたびに着ていたそれを、まだぎりぎり0歳だった彼女は覚えているのだろうか。

「来年も着られるように」と見積もって買ったそのダウンは、当時は袖を折り返して着ていたほどぶかぶかだった(写真は去年の)。娘の小ささが際立って、それもある意味かわいかったのだけれど。

そんな姿をふと脳の片隅に思い出しながら、あわただしく玄関に戻って、そのダウンに娘の腕を通す。

ダウンは、それから1年経ったいまの娘の体型に見事にジャストフィットした。もう、いまサイズあわせしたんじゃないかというほど、ぴったり。むしろ、おなかはぱつぱつ感があるけれど。

フィット感が心地いいのか、1年ぶりの再会がうれしいのか、小さな手でおなかをペチペチとたたいて、「ふふふ」と笑う娘。

その姿を見て、ああ、ほんとうに大きくなったなあと思う。

ああ、無事にちゃんと大きくなってくれているんだなあ。ああ、こりゃもう来年は着られないなあ。ああ、去年の見立て、我ながらぴたりでナイスだなあ。ああ、こうやって一瞬のうちに、どんどん成長していくんだなあ。

嬉しくもあって、切なくもあるような、いろんな感情が入り混じる。そんな感情をそっと心の隅に抱えたまま、「よし!行こっかー!」と明るく言って、バタバタと玄関を出る。

* * *

自転車で感じる向かい風はやっぱり冷たくて、ぴりりと頬を切るような空気に、ダウンを引っ張り出して正解だったなと思う。

保育園へ到着。いつもは夫が朝の送り担当、わたしがお迎え担当なので、わたしが送るのはけっこうひさびさだ。

入り口をあけて、おはようございますと先生に挨拶する。ほら、おはようございますだよーと声をかけると、腰をちょこんとかがめて、お辞儀のまねごとをしてみせる娘。こんなこともできるようになったんだよね。

靴を脱がせたり上着を脱がせたりして、少しようすをみていたら、娘は先生のひざを触ってすっかり気を許しているのが見てとれた。ああ、落ち着いているなあ。通いはじめたころはぎゃあぎゃあ泣いていて、預けて出るときに心がぎゅうと痛んだものだったけれど。

保育園の先生に甘えるその姿をみて、そうか、この8、9ヵ月ほどの間に、彼女も彼女の世界を持ち、ここでの信頼関係を築いてきたんだなあ、思う。

ひとそれぞれだと思うけれど、わたしにとってはやっぱり、子が信頼できるおとなは多いほうが安心できる。むしろ、親がすべてだとは思わないで育ってほしいというか。自分に自信がないからこそかもしれない。

世のなかにはいろんな子育て談義があふれていて、それに触れるたびに苦しくなったり、自分はだめだなあとみじめになったり。気にしなければいいと頭ではなんども思うのに、目にしてしまうと無意識に、塵のようにうすくつもっていって、気にしていないつもりでやっぱりとらわれてしまっている価値観があったりして。自分が信じているものを、信じられなくなったりもして。

母はまだまだ自分の弱さに我ながらあきれたり、やりきれなくなったりしているけれど、それでもあなたは、前をみて着実に、そしてどんどん歩いていっているんだなあ。

1歳と呼べる日々も、あと1ヵ月と少し。「母」ももうすぐ2歳になるんだから、あなたを見習ってちょっとはしっかりしたいと思ったよ。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。