はるって なあに?


「もうすぐ はる が やってくるのよ」

おかあさんねこは うれしそうに いいました。 


ふゆのはじめに うまれた こねこ。 

まだ はるを しりません。


「おかあさん はるって なあに?」


「そうねぇ。 はるは、 ぽかぽかして きもちのいいものね。 

 おかあさん はる が だいすきなの」


ふうん、と こねこは つぶやいて。 


しばらくして パッ と 目をかがやかせました。 

なにか 思いついたみたい。


「ちょっと あそびにいってくるね!」


げんきに そういって 家を とびだしました。


*  *  *


「ようし! はる っていうの さがしにいこう。 

 まっている だけじゃなくて つかまえにいこう。 

 ぼくが 先につかまえて もってきたら 

 きっと おかあさん びっくりするぞ」


にこにこ こねこ。 

こねこは おかあさんの だいすきな はるを 

いちはやく つかまえて 

おかあさんを よろこばせたいと おもったのです。


でも あれれ……?


あわてて とびだして しまったので 

はる のこと まだよくしりません。 


こねこは 森を さんぽ しながら 

はる を さがしてみることにしました。


* * *


「とりさん とりさん おしえてちょうだい。 

 ぼく はるを さがしているんだ。 はるって なあに?」


「ぴいぴい ぴいぴい、 はる かい? 

 はる は ゆきを とかすものさ」


「ありがとう とりさん。 はるは ぽかぽかして きもちがよくて 

 ゆきをとかすんだね」


* * *


こねこは もりのなかを ずんずん すすみます。


「木さん 木さん おしえてちょうだい。 

 ぼく はるを さがしているんだ。 はるって なあに?」


「ざわざわ ざわざわ、 はるだって? 

 はる は たくさんの 花が さくんだよ」


「ありがとう 木さん。 はるは ぽかぽかして きもちがよくて 

 ゆきをとかして 花が さくんだね」


* * *


こねこは まだまだ すすみます。


「むしさん むしさん おしえてちょうだい。 

 ぼく はるを さがしているんだ。 はるって なあに?」


「ぶうん ぶうん、 はるのこと? 

 はる は とっても いろいろな 色 があるんだよ。 

 黄色も緑も ピンクも 白もあるよ」


「ありがとう むしさん。 はるは ぽかぽかして きもちがよくて 

 ゆきをとかして 花がさいて いろいろな色があるんだね」


* * *


こねこは かんがえます。 


「ぽかぽかで きもちがよくて 

 ゆきをとかして 花がさいて いろいろな色があるもの。

 うーん いったい どんなものだろう。 

 いろいろな色じゃあ みつけるの むずかしいかなあ」


ひとやすみして かんがえようと 

こもれびのあたる きもちのよさそうな きりかぶに 

ねそべる こねこ。


うんうんと いっしょうけんめい かんがえていたら 

なんだか さしこむ ひかりが きもちよくて 

うとうと うとうと ねむってしまいました。


*  *  *


「まあ こんなところで ねむって いたのね。 ほうら おきて」


うとうと まどろんでいた こねこのみみに 

やさしい こえが きこえました。 

ねぼけまなこで かおをあげると 

おかあさんねこの すがたがありました。


どうやら なかなかかえってこない こねこを しんぱいして 

さがしにきてくれたようです。


「ずいぶん とおくまで あそびにきたのね。 

 どんな ぼうけんを していたの?」


「ぼく……、 はる を つかまえたくて さがしていたんだ。 

 でも なかなか みつけられなくて。 

 はるって ぽかぽかで きもちよくて ゆきをとかして 

 花がさいて いろいろな色があるもの なんでしょう?」


おかあさんねこは にっこり ほほえみました。


「まあ そうだったの。 でも あなた 

 ちゃんと はるを つかまえているみたい。 

 ほら まわりを よく みてごらん」


* * *


こねこは あたまを もちあげて 

まわりを みわたしてみました。 


かれていると おもっていた 木々には 

よくみると きみどりいろの ちいさな しんめが 

たくさん かくれていました。


白や うすいピンクいろの ちいさな ちいさな 花のつぼみが 

たくさん ついている 木々も ありました。


こねこの ねていた きりかぶの まわりに

すこしだけ のこっていた ゆきは 

やさしい ひざしで ゆっくりと とけているところでした。


そのすきまから みえる じめんには 

きいろや 白や うすむらさきの 花のつぼみが 

すこしずつ ふくらみかけていました。


「春は もう すこしずつ きているわ。 

 じきに つぼみが ひらいて 色とりどりの 花たちが さくの 」


* * *


そして やさしい こもれびは 

こねこたちのいる きりかぶに やわらかく ふりそそぎます。 


おかあさんねこに くるまれた こねこは 

ますます ぽかぽか。 

また ねむってしまいそう。


「おかあさん はるは もう ここに あったんだね。 

 ぼく ほっとしたら なんだか 

 ぽかぽかして きもちがよくて……。 

 ぼくも はる すきかもしれない」


おかあさんねこは ふふふ と ほほえんで 

ふたたび うとうとしはじめた こねこを 

やさしく だきしめました。


じめんの ちいさな 黄色い 花のつぼみが 

こねこの きたいに こたえるように

すこしだけ そっと ふくらんだようでした。


自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。