04.目覚め

冷たくなったその亡骸が村に運ばれてきた。
「あたしはこれで」と亡骸を運んできた商人は足早に立ち去る。
遠巻きに見ていた村人の中から一人の少年が叫んだ。
「イチルーさんっ」
叫んだ少年、プディンは駆け寄ろうとするが足がもつれ倒れ込んでしまった。
プディンをピリッポが支える。
「ボクのせいだっ!ボクのせいでイチルーさんは……ボクがイチルーさんを殺したんだっ!」
ピリッポはプディンの肩を抱き落ち着くよう促す。
この村では「死」は穢れとされ、まだ幼いプディンをこの亡骸に近付かせるのは避けたかった。でも、この村を離れる自分なら……と、ピリッポはプディンの側を離れ、亡骸へ近付きその手を取ろうとした。
「そこは『きれいな顔してるだろ』じゃないの?」
イテテテと腰を抑え、きれいな顔をしたそれは起き上がり出した。
「イチルーさん!!」
「イチルー!?」
ピリッポはあまりの驚きで腰を抜かしてしまった。

「ほらぁ、チャンピオンは死んだふりで驚かせただけじゃん」
「演芸グランプリ3連覇は伊達じゃないね」
「死体に近付かない我々の心理と、元相方との友情を利用されたぁぁぁっ」
村人は悔しがり、腹を抱えて笑い、イチルーの生還を喜んだ。
ただ一人、プディンを除いては。
イチルーは腰の痛みを和らげるため、トントンとリズムよく叩きながらプディンの方へ近付く。
「ごめんなさい……イチルーさん。ボクとの約束のせいだよね?その腰も怪我しちゃったんだよね?」
溢れんばかりに涙を溜めるプディンにイチルーは答える。
「いや、腰はどっちかっていうと死後硬直?」
「死!?」
「あ、いや……馬車の中でずっと寝転んでいたから固まっただけだよ」
今にも大泣きしそうなプディンを見て、慌てて言い直す。
イチルーは、あの時確かに死んでいた。それを彼には伝えてはいけない。それだけは分かっていた。
「……で、君さ。誰?」
村にはその日一番の泣き声が響き渡った。

***

さて、これからどうしようか。
今にも泣きそうなプディンと名乗る少年に「大丈夫大丈夫!」と軽く言葉をかけ、村の中で行くべき道の手がかりを探す。
そういえば村人から遠巻きにされていた中で、先程のプディンともう一人だけが僕に駆け寄ろうとしていた。彼なら泣き叫びはしないだろうし、何か教えてくれるかもしれない。
「この家に入っていった気がする」と僕は適当に扉を開けた。

「イチルー!おどりょかすなよぉ」
「えぇと。ごめんごめん。ところでさ、僕が何しようとしてたかとかわかるかな?何か……記憶なくって」
ヘラヘラと頭を掻きながら聞いてみる。
「うぇぇ!?おみゃえ、記憶ソーシツなの!?」
泣き叫びはしないが彼は盛大に噛んでいた。
「落ち着いて話せ。マジで」
「おぉ、また噛んじまったな」
ひと呼吸置いて、彼は話しだした。

「お前はおりぇとのコンビを解散した後、レンダーシアの演芸グランプリに出りゅって言ってたんだ。旅立つ前にこの村でやり残したこともしにゃきゃとも言ってたけどな。そのショーコにルーラストーンと、オレがせんべちゅに贈った秘蔵のネタ帳があるはずだじぇ!」
落ち着いて話しても噛んでいる……いや、噛みすぎだろ。
「ふむ。やり残したこととルーラストーンとネタ帳……」
懐を探っていると、ピリッポは得意げに話す。
「あぁ!オレの超大作!!世界の武器!!」
「サバンナ八木じゃねぇか」
つい真顔で突っ込んでしまったが、ピリッポには通じない。
「怪獣大百科は渡せねぇな!」
やっぱりそれもあるんだ。
「うーん。ないなぁ。というか……何も持ってない」
「マジかよ……オレの超大作……」
ピリッポは膝から崩れ落ちた。
「ねぇ、イチルーさん」
声をかけられ、振り向いた先にはプディンがいた。
「ボクとの約束なんて……もういいから」
「約束……?」
ハテと首を傾げると……プディンはやはり泣き出してしまった。
「うわわわわ、ごめん!ごめんね?プディンくん?」
慌てて謝る僕に「イチルーさんはボクのことを『くん』なんてつけないのに」と泣き叫ぶプディン。
「イチルー、ここはオレがなんとかしておくから、ルーラストーンの在り処を村長に聞きに行け。きっとネタ帳も同じ場所にありゅだろ」
最後噛んだの惜しかったね!!と感謝の意を伝えて、僕は村長の元へ向かった。


【お話の補足(蛇足)】
きれいな顔してるだろ
「ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。ソレで。」と続く有名な台詞。
そのシーンは何度も見たけど、その後はよく知らない勢です。申し訳ない。

世界の武器と怪獣大百科
サバンナ八木の著書。著書というか多数あるネタ帳の一つ。
武器は八木自身だと千原ジュニアに言わしめた作品なので未読の方は是非。

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