05.新たな約束

村長の話では、賢者の隠れ家にいる賢者エイドスに聞けば分かるかもしれないという。
賢者の隠れ家に着いた僕は不思議な雰囲気の老人が何かの魔方陣を描いている。
この人がエイドス、その人なのだろう。
「何だか……紫のモヤみたいなのがかかってますね」
声をかけると、老人はこちらも向かず怪訝そうな声で聞いた。
「何故、この中で平気な顔をしていられるんじゃ」
「え?」
僕は聞き返す。
「ここには触れるだけで身を滅ぼす大いなる災いが封印されておる。小さなプクリポの身体では、命などもたんわ」
「何とも……ないみたいなんですが」
振り返りこちらの姿を見た老人は「ふむ」と一言呟いて、作業を止めた。
「お主、何をしに来た」
「エイドス様という賢者に会いに。ルーラストーンの行方を教えていただきたいんです」
エイドスは僕の目をじっと見た。老賢者は長い眉と長い髭を蓄えており、表情など読めないが鋭い視線が突き刺さるように感じる。
「鍵を握るのはプディンという少年じゃ」
なるほど、彼が言う「約束」が鍵なのだろう。
「ありがとうございます!」礼を述べて隠れ家を後にしようとすると、エイドスは「しかし、石を取り戻すには試練も必要じゃ」と不穏なことを呟いた。

***

「イチルーさん……記憶……ないんですね……」
村に戻ると幾らか落ち着きを取り戻したプディンが迎えてくれた。
「そうみたいなんだ。だからもう一度、約束について教えてくれないかな?」
僕はプディンに優しく問いかける。
「ボクの両親は地図を作る仕事をしていたのですが、ある時けがれの谷の測量中……けがれの大蛇に襲われてしまい、命を落としてしまったのです。それで毎日泣いていたボクの所にイチルーさんは来てくれて……旅に出る前に仇討ちをしてくれるって出て行ったんです。そしたら……商人さんがイチルーさんの亡骸を……」
泣きそうになるプディンに「今生きてるから」と慰めを入れる。
「君との約束っていうのは両親の仇討ちってことだったんだね」
「はい。イチルーさんはボクに『村のチャンピオンは村のみんなが笑って暮らせるようにするのが役目』だって言ってくれて」
目に涙を溜めながらも嬉しそうに話すプディンを見て、僕は何かを思い出した。
「『人々を本当に笑顔にするには平和が必要』……か。」
顔をしかめていたようでプディンが心配そうに覗き込む。
「あぁ、ごめんごめん。じゃあ、これからもう一度、けがれの大蛇の元へ行ってくるよ」
出来るだけ明るくそう告げると、プディンはかぶりを振って青く光る石を差し出した。
「これ、ボクのルーラストーンです。もう、約束のことはいいんです。ボクは泣き虫で、この村の嫌われ者で……ボクなんかのために」
「泣きたい時は泣いたらいいんだよプディン!泣いて『これが涙……泣いてるのは私……?』って呟けば、なんか分かんないけどこの辺に増えた冒険者にドカンドカンだじぇい!!」
派手なポーズで登場するピリッポ。っていうか、何言ってんだコイツ。
「冗談はさておき!ふやけんなよプディン!しびれくらげ先生が今のお前を見たら情けなくてマヒしちまうぞ!」
「しびれフヤケ先生?」プディンが勢いに負けて聞き返す。
「フヤケじゃねぇ!」
そう言って手に持ったケーキをこちらに投げつける。
「くらげだ!しびれくらげティーチャーだ!泣いて泣いて、泣くのに飽きたら村のみんなでお前を笑わしぇてやる!イチルーだって、オレだって、村のみんなはお前のこと心配してるんだ!今だって、女の子からプディンに食べさせてって隣り町のケーキ……あれ?ケーキがねぇ!!」
ピリッポはケーキを持っていたはずの手とこちらと交互に見比べた。

「ストラァーイク」
「イチルー!!」
投げつけられたケーキは見事に僕の顔をクリーム塗れにしていた。
その様子を唖然と見ていたプディンは小さく「ありがとう」と呟いた。

***

「そうかー。やり残したことってのはけがれの大ちゃんを退治することだったんだな。村のチャンピオンとしてプディンに笑顔を取り戻すために命を張るなんてお前らしいや!」
「でも……やっぱり、危ないよ」
「止めたって無駄さ!こいつの頑固さはオレが保証するぜ」
「お願いだよ、イチルーさん。ボク、村で待ってるから絶対に生きて帰ってきてね!約束だよ!」
ピリッポとプディンに見送られ、僕はけがれの谷の最奥ーー北の荒地を目指した。


【お話の補足(蛇足)】
人々を本当に笑顔にするには平和が必要
お離しっ!っていう小噺が昔あったんです。

これが涙……泣いてるのは私……?
TV版『新世紀エヴァンゲリオン』での綾波レイのセリフ。やっべぇ、それ以上何も覚えてない。
ピリッポは偶然出会った赤い髪の人に教えて貰ったんでしょうね。

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