M-1 2020 掴みと順位の関係性
M-1に限らず漫才全体に言えることだが、お客さんをグッとコンビの世界観に引きつけるために「掴み」は非常に重要だ。
私は、掴みで大切なのは質よりもスピードだと思う。質が高いのに越したことはないが重視すべきはそちらではなく、あくまで登場から漫才の話題に入るまでの数秒でいかにお客さんの心を掴むか、この一点に尽きると思う。そこにコンビならではの個性が感じられるとなお良しだ。
今回のM-1 2020では、マヂカルラブリーが優勝した。マヂカルラブリーの掴みは
村上「村上です」 野田「○○(自己紹介風の小ボケ)でーす」 村上「マヂカルラブリーです」野田「○○です(同時に言うが合わせない)」 村上「お願いしまーす」野田「○○(ここでも合わせない)」
という漫才に必須な自己紹介をうまく利用した掴み。
今回の決勝では、1本目の野田さんのセリフは「どうしても笑わせたい人がいる男です」。言わずもがな、上沼恵美子さんのことである。まさにM-1特別仕様といったかんじだ。2本目では「その(村上)ズッ友です」。普段の劇場などの掴みであれば笑ってしまうが、M-1という年に一回の大勝負・かつ決勝戦ファイナルラウンドでのこの掴みはコンビとしての二人の関係性が表現されているようで不覚にも感動してしまった。
そんな「掴み」のスピードと決勝の順位に関係性があるのか気になり、今回決勝の舞台で漫才を行った10組の掴みとその秒数(第一声から掴みまで)を調べてみた。掴みがない場合は最初の笑いどころ(ボケ)までの秒数とする。
まず1組目、敗者復活からすぐ出番となったインディアンス。 インディアンスの掴みはボケの田渕さんの、腕を触りながら「急にあったかいから(体が)かゆいですね」というもの。極寒の野外会場で行われている敗者復活戦をボケとしてうまく活用したものだった。秒数は8秒35。早い。
続いて2組目、初の決勝進出の東京ホテイソン。 東京ホテイソンは、掴みがなく、いきなりネタに入ったため、ネタに入った後のツッコミのたけるさんの「んん!?」というのが最初のボケ(ノリボケ)となった。秒数は掴みがなかった分、1分07秒と長め。
続いて3組目、昨年に続き二回目の決勝進出となるニューヨーク。 ニューヨークの掴みは、ボケの嶋佐さんの「それじゃあ、爆笑エピソードを2,3発ほど」という自分からハードルを上げるというもの。秒数は8秒53。
続いて4組目、3年連続決勝進出の見取り図。 見取り図は掴みがなく、ネタに入った後のボケのリリーさんの「申し訳ありませんでした」というセリフの後に初笑いが起きている。ここを最初のボケと考えて秒数は32秒53。
続いて5組目、異色のピン芸人コンビ(ユニット?)、おいでやすこが。 おいでやすこがの掴みは、ツッコミのおいでやす小田さんの「え~先日僕たち、寝て起きたら漫才しか残っておりませんでした」という自らがR-1の出場権利を失ったことをボケに使うキレイな掴み。秒数は9秒15。
続いて6組目、見事優勝を果たしたマヂカルラブリー。 掴みは先述の通り。しかし、先ほど述べたのはあくまで「発言」としての掴みである。なぜこんなことを言うのかというと、マヂカルラブリーの登場の際、ボケの野田さんが正座でせり上がってきて、そこで笑いが起きているので形としての掴みはもしかしたらこの「野田さんの正座」なのかもしれない。なので、掴みを正座とすると、秒数は0秒00。先述の自己紹介を掴みとすると、4秒66。それでも早い。いずれにせよ、掴みを重要視していることは間違いなさそうである。
続いて7組目、2年連続の決勝進出、オズワルド。 オズワルドは明確な掴みというよりは、ネタの入りのボケの畠中さんの「俺、畠中っていう苗字辞めようと思うんだよね」という発言を起点にしたツッコミの伊藤さんの「一旦、伊藤だけ覚えて帰ってください」という柔のツッコミが最初笑いの部分だった。秒数は16秒20。
続いて8組目、2回目の決勝進出、アキナ。 アキナも掴みは無く、いきなりネタの内容に入り、ツッコミの秋山さんの「好きなん?」という最初のツッコミが初笑いの部分だった。秒数は29秒96。
続いて9組目、史上最年長コンビ、錦鯉。 錦鯉の掴みは、ボケの長谷川さんの「こ~~んに~~ちわ~~」という第一声。秒数は4秒55。かなり早い。
最終10組目は、初の決勝進出、ウエストランド。 ウエストランドの掴みは、ネタ入り直後のボケの河本さんの「そろそろ不倫したいなーと思ってね」というボケ。秒数は11秒16。
ここまで決勝戦ファーストラウンドの全コンビの掴み(最初のボケ)の秒数を調べてきた。掴みの早い順に並べてみる。*カッコ内は順位
①マヂカルラブリー 正座:0'00 漫才中:4秒66 (2位、最終は優勝) ②錦鯉 4秒55 (4位) ③インディアンス 8秒35 (7位) ④ニューヨーク 8秒53 (5位) ⑤おいでやすこが 9秒15 (1位、最終2位) ⑥ウエストランド 11秒16(8位) ⑦オズワルド 16秒20 (5位、ニューヨークと同点) ⑧アキナ 29秒96 (8位、ウエストランドと同点) ⑨見取り図 32秒53 (3位) ⑩東京ホテイソン 1分07秒 (10位)
こう見ると、優勝のマヂカルラブリーはやはり掴みも早かったことがわかる。そして、正座という独特な登場もある種の掴みとしての機能を果たしていたのかもしれない。
余談だが、個人的に今回のM-1の掴みで一番好きだったのは、おいでやす小田のR-1ボケでした。(笑)
皆さんも、漫才を見る際には「掴み」を意識して見てみるのもまた一興かも?
それじゃバイバイ
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