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国語の成績『2』の実力は不滅

 朝、目が覚めたら那央が俺を見てた。

それがあまりにかわいい顔で見てるもんだから、俺は夢と現実の区別がつかない。うまく反応できなくて黙ってたら「おはよう」って言って那央が笑った。

視線をずらして壁の時計を見ると朝の8時過ぎ。

「ごめん。寝すぎた」そういって起き上がったら「ううん。ごめんね。昨夜遅かったのに・・」って言いながら、那央は派手な色の紙を俺に手渡す。その紙を受け取りながら「なにこれ」って聞いたら、那央は耳を真っ赤にして笑うと、ベッドに上がり、俺の背中に抱きついて言った。

「ラブレターだよ」

え?まじ?って思いながら、寝起きで若干かすみ気味な目を必死でこらして文字を追う俺。・・・読めない漢字があまりに多すぎて、途中からはスマホで調べながら読んだ。

那央の直筆文字、久しぶりに見た気がする。

一緒に暮らし始めてからは用事があっても口で言えば済んじゃうし、出先から何か伝えたい時だって、スマホでどうにでもできちゃうじゃん。だからちょっと、この文字を直接見るのは久しぶり。・・・・いや・・今でも時々交換日記とか昔もらったメモや手紙を読み返すことはあるんだけど、これは最新版じゃん。初めて読むやつ。やっぱ嬉しいよ。

わからない漢字をいちいち調べながら読み進めていく間、那央は俺の肩とか背中を齧ってた。いつも以上にがぶがぶ噛むから『こいつ大丈夫かな・・』って思ったりもしたんだけど、那央が書いてくれた文字を目で追ってくうちに『ああ、照れてるんだなー・・』って、なんとなく察した。

漢字は難しかったけど、一度読んだら忘れられないような、最高の手紙だった。

こういうものって手元に残るじゃん。言葉も思いも俺を通り過ぎないで、ずっと手の中に留まり続けてくれるじゃん。だから必要な時に読み返せる。好きな子の手紙が『必要』な時が俺にはたくさんあるんだよ。

自分に自信が無くなった時、自分の未来がわからなくなった時、那央がくれた手紙を読んで俺はいつも顔を上げている。もう10年以上そんな感じだから、この先もずっと死ぬまでそんな感じなんだと思う。

すぐに返事を書きたかったけど手元に書くものが無いから、とりあえず那央を抱きしめて、直接、俺の気持ちを話した。那央は話の途中で泣いちゃったんだけど、最後までちゃんと聞いてくれたよ。

ちょっと照れくさい朝だったし、マジで漢字とか勉強しなきゃやばいな・・って思ったけど、いい一日の始まりだった。なにより那央が、すごくかわいかった。








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