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23. 在り得たかもしれないもう一つの世界。ローリングストーンズの『Their Satanic Majesties Request』

さて、このマガジンではフランク・ザッパが1969年に発表した『Hot Rats』を皮切りにその後の主にドイツでのロック&アンビエント&テクノシーンを追ってみましたが、そこをさらにというかちょっと遡れば、やはり、行きつくのは60年代後半のいわゆるサイケデリックムーブメントでしょう。

一般的にサイケデリックムーブメントを代表するアルバムと言うと名前が挙がるのがビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(以下『Sgt. Pepper's』)なのでしょうが、ビートルズについてはいずれ改めて語るとして、今回は発売時には『Sgt. Pepper's 』のパクリ?とも言われたビートルズの永遠のライバルにして、そして今も続いているという意味での「勝ち組」としての「ザ・ローリングストーンズ」の名盤というか迷盤として扱われている『Their Satanic Majesties Request』(以下『Satanic Majesties』)を取り上げます。

このアルバム、ジャケットを一見して分かるように、ビートルズの『Sgt. Pepper's』をかなり意識しています。発売日的にも後追いです(どちらも1967年の発売だが『Sgt. Pepper's』のほうが半年ほど早い)。しかし、どっちが発売が先か後かというような問題よりもそこに同じ問題意識があったという方が重要でしょう。恐らくそれは、メロディーではなく、サウンドをどう構築していくか、どう重層化していくか、という問題です。

レコーディング技術が上がるにつれ、アルバムをバンド演奏の再現としてではなく、それ自体が表現であり、作品である、という意識が、それこそ意識の高いバンドの間では広がってきました。いわゆる「コンセプトアルバム」という考え方です。ライブでは、バンド形式では表現できないものが、当時はまだレコードでしたが記録媒体では表現できる、それは大きな魅力だったでしょう。その意味で、ビートルズやストーンズが、後にライブに回帰するとはして、この時期、レコーディングに凝ったことは理解できます。そして実際、歴史に残るアルバムを両者は同じ年に発表しました。既に言及した『Sgt. Pepper's 』と『Satanic Majesties』です。

そして、今になって改めて聞いてみると、新しさ、斬新さとしては確かにビートルズに軍配が上がるでしょうが、しかし音楽としての強さ、音楽としての魅力としては個人的にはストーンズに軍配を上げたいです。ビートルズの『Sgt. Pepper's 』は、なんというかNHKの「みんなのうた」的です。もちろんそれだけ「みんなのうた」のレベルが高いということですが、いろいろなパターンのショーケース的な『Sgt. Pepper's』に比べて『Satanic Majesties 』は、たしかに前半は試行錯誤的な感は否めませんが、後半の、今でもストーンズのライブで演奏される「She’s A Reinbow」からは、「待ってました!」と掛け声をかけたくなる傑作の連続です。そこでは彼らがこだわる「ブルース」をサイケを取り入れながらも追及し、それが結果としてもいい方向に現れています。確かに今の、というか70年代後半以降のスーパーバンドとしてのストーンズはこのような演奏やアレンジはしないでしょう。もっとシンプルなロックで観衆を沸かせてくれるでしょう。でもまだ、ブライアン・ジョーンズがいたこの時代には、このサウンドが可能だったし、このサウンドが追及されていたのです。そして「もしも」ですが、ブライアン・ジョーンズがストーンズを離れず、またもし若くして亡くならなかったのであれば、この方向性は何らかの形で今でも続いていたでしょう。ミックとキースのグリマーツインズが、そしてジョン&ポールのゴールデンコンビがメロディのほうを追及、探求していたのであれば、ブライアン・ジョーンズは、そしてビートルズ側で言えばジョージ・ハリスンは、サウンドを追及、探求していたと言えるでしょう。そしてそれこそが、我々が(というか「私」が)聞きたかった音楽でもあります。

ということで『Their Satanic Majesties Request』、是非一度聞いてみてください。皆さんのストーンズのイメージが変わるかと思います。



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