アートとポピュリズムに関する雑感

眠れぬままに宮台真司(&青木理)のラジオ ー 過去ログ ー を聴いていたら、夜が明けた。
自分はブロ友さんの指摘を待つまでもなくポストモダンというかポスト構造主義というか、この辺りの評論家が嫌いで、宮台真司にも良い印象を持っていない。ただ、件のラジオシリーズには首肯できることが多かったので、拙論と併せてご紹介申し上げる。

昨秋、あいちトリエンナーレのうち「表現の不自由展」がクズウヨどもの攻撃によって一旦中止に追い込まれた。未だ高須クリニック某なるネオナチを中心に大村愛知県知事のリコール運動などやっておるが、そんなことや件の「昭和天皇の写真を燃やしてガー」だの、表現の自由については、ここでは書きません。

そもそもアートとは何ぞやいうこと。

宮台曰く

「不可知なもの、不都合なもの、不快なものを突きつけるのがアート(芸術)である」

ここで彼は、あいちトリエンナーレを初めとする〝パブリック・アート〝との不整合を指摘するも、これまた本論ではない。上記の規定を宮台は、古代ギリシャに遡って説く。

自分が小林秀雄『近代絵画』で読んだのは、欧州ではそもそも絵画とは、王侯貴族や富裕な商人らが肖像画を書かせていたもの、ということ。写真のない時代、それは写真代わりで、絵描きはそれで食っていた。ここにオリジナリティを発揮したのがレンブラントで、有名な『夜警』

は、中心の一部人物だけに光を当て、周囲の人々を闇に塗りこめてしまった。
小林秀雄はここに「近代」の萌芽を見た。つまり「個人」「自意識」の。

宮台真司は古代ギリシャの建築や物語(神話・叙事詩・悲劇)にアートの源泉を見る。こうしたら、こうなるはず。そんなものは欺瞞である。社会の外側 ー 海山、嵐 ー のみならず、社会の内側にも不都合・不快がガッツリある。例えば怪物スフィンクスを退治したオイディプスは、「おまえは必ず、絶対に、母親と姦淫する」とのオラクルの(神託)を受ける。
オイディプスは当然、「そんなん有り得へん」言うて退散、放浪。諸々の挙句しかしやっぱり、自分の母親とやっちまう。

俺が直ちに想起したのは、シェークスピア『マクベス』。
マクベスはスコットランド王ダンカンの手下・いち武将で、信長配下の秀吉や柴田勝家、丹羽長秀状態。戦争で勝って凱旋の途中、バーナムだったっけ、あそこの森で3人の魔女に出会う。

「きれいはきたない、きたないはきれい。あなたはいずれ、蜘蛛巣城の城主様」

◆黒澤明監督『蜘蛛巣城』予告編
https://youtu.be/hyU0yLBh5ZU


マクベスは一笑に付す。「俺がダンカン王を殺すわけないじゃん。そもそも王位をのっとる欲なんてないし。あり得へん」。
ところが ー 山田五十鈴夫人の煽りもあり ー 彼は、泊まりに来たダンカン王を殺っちまう。

『ゴッドファーザー』もそうだろう。ビト・コルレオーネ(マーロン・ブランド)も三男マイケル(アル・パチーノ)も、言わばただ家族を守ろうとしただけ。それが、あんなことに。
◆コッポラ監督『ザ・ゴッドファーザー』

https://youtu.be/CWoQlDlyQj4


つまりシェークスピアも黒澤明もコッポラも、正統的ギリシャ悲劇を伝えているわけだが。

これらは単なるお話じゃなく、真実を表したもの。だって人生って、「こうしたら、こうなる」じゃ全然ないじゃないですか。いかに不都合・不快であろうとも。
これがアートと、宮台も俺も説くのだ。

いっぽう世間は、多くの衆は、ハッピーエンドが大好き。「快」を貪り余りない。
気持ちはわかる。だって人間だもの(相田みつを)。普段キツイ仕事に耐えているから、誰しも悩みを抱えているから、せめて音楽や映画、小説に芝居くらいは心地よくなるものを。

ただ、それで投票しちゃうのが問題なのだ。
こんな奴がいた。「野党は貧乏臭いから嫌い」。彼や彼女が政策で奴らに投票しないならOK。でも〝貧乏臭い““嫌い〝って、感情じゃん。

事は与党野党ではない。安倍自民も小池百合子も松井一郎・吉村洋文らの維新も、俺に言わせりゃ山本太郎も、ポピュリズム。N国の立花やレイシスト高田(桜井)誠なんて論外だが、感情を刺激し、票を支持を募る。そして愚民どもがそれに乗せられる。
あのな。選挙は人気投票じゃないから。政策と候補者の来し方を、じっくり見ないと。いかに地味でも、目立たなかろうとも。

わーくにでは民主主義は不可能ではないか。俺はほとんど、そんな思いを強くしている。
こんなポピュリスト連中に入れるのが多いから。先の都知事選でも小池が3百万超、レイシストの犯罪者ですら18万票だぜ?

迂遠な論ではあるけれど、日本人民がアートを知らず、悲劇を我事と知らないからそうなっちゃうのかも知れない。ハッピーエンドばっかり喜んで、ぬるい本ばっかり読みくさって。

コーマック・マッカーシーの文学や映画を上げても、なんとまあ反応の薄いこと。そのあたりにわーくにの宿痾が表れているのではないだろうか。

いいですか。よく噛み締めておきなさい。
「人生を取り戻すことなどできない」「一度した選択を、取り消すことなどあり得ない」ですぜ。
◆緊迫の特別映像 ー コーマック・マッカーシー 「悪の法則」より
https://youtu.be/MJGmoDWzVH8


そしてマッカーシーおじいちゃんも、ギリシャ悲劇(や、ドストエフスキー)を知悉してはります。


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