見出し画像

日常の中の 美しさ と はかなさ ー久門 剛史 − らせんの練習 @豊田市美術館

 日常の中の「何気ないけれど 美しい瞬間」を切り取って精製したような展示で、それが ”いつまでもずっと続く”ような感覚と、ふとした瞬間に崩れる・見えなくなるような”はかなさ”も感じる展示でした。

久門 剛史 − らせんの練習 @豊田市美術館

画像1

1) 展示室の空間と光を取り込んだインスタレーション

 まず印象的だったのは、ひとつひとつ趣の異なる展示室にあわせたインスタレーション。

画像2

豊田市美術館 外観)

 建築家・谷口吉生さんによって設計された豊田市美術館。「光の変化のシークエンスを演出しています」という展示室は、天窓からあかりの入る2フロア吹き抜けの展示室があったり、奥まった小ぶりの展示室があったり、乳白色の壁面から柔らかい光の展示室があったり…と、様々な空間があります。今回の展示ではそれぞれの展示室に合った新作インスタレーションが展開されていました。

画像3

画像5

(2フロア吹き抜けの大きな展示室をつかった《Force》)

画像4

(壁面からの柔らかい光にあふれた展示室では、透明なアクリルケースをつかった《丁寧に生きる》のシリーズ作品)

画像6

(白くて広い展示室のなかに1つだけ置かれた、ルーペのついた秒針の作品《crossfades #1》。展示室と作品が相似関係にあるようです。)

2) 日常の中にある美しさ

 どの展示室も美しく厳かな雰囲気で、作品としてつくられた音だけではなく、作品の時計の針の動く音などにも静かに耳を澄ませます。

画像7

画像8

(《after that.》)

 だけど、そんな静かで厳かな雰囲気の作品のなかに見える”美しさ”は、”特別なもの”ではなくて。例えば、毎日目にしていたけれど存在に気づかなかったものの存在にふと”気づいた”瞬間、カーテンが風にゆられて光が漏れて見えた瞬間、シャープペンシルの芯がストンとまっすぐ落ちる瞬間、騒音がふと途切れて遥か遠くで鳴っている踏切の音に気づくいた瞬間…のような、日常の中で感じる「あ、今、なんか良かったな」みたいな、ちょっとだけ心の引っ掛かるような何気ない”美しさ”でした。

画像9

(展覧会にもなっている《丁寧に生きるーらせんの練習ー》。秒針につけられたシャープペンシルの芯が円を描きつつ、1周ごとに段差からすっと静かに落ちる…ただそれだけなのに、心にひっかかる美しい作品です。)

 日常のなかでが、次の瞬間には忘れてしまうような美しさを抽出して気づかせてくれるような作品です。

画像10

(遠くから見るとただの白いキャンバスにみえるけれど、近づくことで見えなかった存在に気づく《crossfades -Torch-》。)

3) らせんの永遠性とはかなさ

 展示を通じて取り入れられているのが、螺旋と円のモチーフ、それから3.1415926535 8979323846… という円周率。どこまでも続く円周率が、”らせん”という形で、階層を変えたり広がりながら続いていきます。

画像15

(展覧会のチラシに描かれたこちらの円周率とらせんのモチーフが、展示を通じて出現します。)

 そんな”いつまでも続く”ものがモチーフである一方で、焼け落ちたような版画や、回転するローターに押し出されて落ちる紙、支えを1本失った円卓からこぼれ落ちて明滅する電球、見る位置によっては”見えない”作品などと組み合わされていて。

画像11

(《Quantize #7》より)

 ”いつまでもずっと続く”という安心感とともに、それがふとした瞬間に崩れる・見えなくなるような儚さも感じるような展示でした。

画像12

(《Force》より)

 なお、1Fの展示室では、大規模なコレクション展「VISION Part 1 光について / 光をともして」も開催中です。奈良美智さん、横山奈美さん、野村仁さん、とまとまった作品を見ることができて、解説冊子もいただけて、こちらもとても良い展示でした。

画像13

(《LOVE》 / 横山奈美)

 2020年6月21日までです。

グレー

【展覧会概要】 久門 剛史 − らせんの練習 

画像16

会期:2020.03.20-2020.06.21
会場:豊田市美術館
時間:10:00-17:30(入場は17:00まで)
休館日=月曜 (ただし5月4日[月・祝]は開館)
観覧料:一般:1,000円、高校・大学生:800円、中学生以下無料


最後まで読んでいただきありがとうございます。良かったらサポートいただけたら嬉しいです。サポートいただいたお金は 記事を書くための書籍代や工作の材料費に使わせていただきます。