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宇宙消失

"そしていま、おれはここで、夜の闇を見あげ、自分の目に映っているのが無限の空間なのか、それともまぶたの裏側なのか、わからずにいる"1992年発刊の近年最重要のハードSF作家初の長編である本書は、探偵ものにナノテクと量子論"シュレディンガーの猫"が融合した、類のない読み心地。

個人的には、SF好きとしては読まなければと思いつつ、専ら文系の私にわかるのだろうか?と積読になっていたのですが。映画『ハローワールド』での紹介(あっちは『順列都市』ですが)あるいは漫画『バーナード嬢曰く。』での【多少よくわからなくても、すっっっごくおもしろい】という登場人物のセリフに勇気付けられて【長編の中では読みやすい】といわれる本書を手にとりました。

さて、そんな本書は元警察官の主人公が依頼を受けて女性を探す【馴染みのある私立探偵もの】として"モッド"と呼ばれる脳神経をナノマシンで再結成するというSF的ギミックの自然な紹介や【正体不明の暗黒球体が突然、太陽系を包み込んだ】と大風呂敷を広げられても最初の方はまあ確かに読みやすいのですが。途中の実験で、量子論的な展開が突然出てくると。いよいよ来たか!と"よいしょ"と居住まいを正して(または後書き解説を参照にして)咀嚼し、感じていく読後感でした。

また、多少ネタバレになりますが。多元宇宙に同時に存在する生命体から見れば、観測により一つに収縮させてしまう人類の方が【特殊にして脅威】というコペルニクス的転回は面白い。そして、ちょっと後半は【ベストの選択を自由に選べるようになった】主人公が無双して、何がなんだか的ですが、それでも最終的には日常に着地するのもホッとしたり。確かにこれは【多少よくわからなくても】読み終えた時にSFって最高だな!と思わせる一冊だと思いました。

ハードSF好きな方はもちろん。考えるな感じろ的なSFを探す誰か、あるいはSFに頻出する"シュレディンガーの猫"話であーだこーだ言いたい人にオススメ。

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