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ネイティブ・サン アメリカの息子

"『俺は殺したくなかったんだ!』とビッガーが叫んだ。『でも、俺が何のために殺したかというのは、それ自体が俺だからなんです!ものすごく奥深くにあるものが、俺に殺しをさせた!(略)』"1940年発刊の本書は、映画化もされた20世紀アメリカ文学の問題作、オリジナル版翻訳。

個人的に主宰する読書会の課題本として手にとりました。

さて、そんな本書は20世紀アメリカ黒人文学の先駆者、ブラックパワーという言葉をつくったことや、晩年は俳句に凝った事でも知られる著者による一冊で、1930年代、大恐慌下のシカゴを舞台にアフリカ系アメリカ人の青年、ビッガー・トーマスが資本家令嬢で、共産主義に傾倒する白人女性を意図せず誤って殺害してしまった事で人生を転落していく姿が『恐怖』『逃亡』『運命』と三部仕立てで描かれているのですが。

せっかく運転手という理想的な仕事を得たにも関わらず、勤め初日にあっという間に殺人、衝動的な死体隠蔽にいたってしまう第一部の展開の早さにまず驚きました。

一方で、第三部。弁護士マックスとのやりとりでビッガーが心を開いていく様子、またマックスのドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を彷彿させるような法廷での弁論の様子は確かに心に響く部分がありました。

今も続く人種差別抗議運動『Black Lives Matter』の背景理解をしたい方や、アメリカ文学における新しい黒人像を創出した一冊としてオススメ。

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