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家守綺譚

"ーどうした高堂。私は思わず声をかけた。ー逝ってしまったのではなかったのかな。ーなに、雨に紛れて漕いできたのだ。高堂は、こともなげに云う。"2004年発刊され、本屋大賞3位、ラジオドラマ化もされた本書は100年前に在った自然や怪異を当たり前に受け入れる世界を描いていて癒される。


個人的に今まで著者の本を読んだ事がなかったのですが、知人にオススメされて今回初めて手にとったのですが。最近『江戸の妖怪絵巻』(著 湯本豪一)という本で、約100年前の明治時代においては【山芋が鰻になったり】【古狸が汽車に化けた】といった事件が新聞で普通に報道されていた事を知っている身としては、本書で描かれている自然や人間、あの世とこの世が曖昧になった様な世界が特段不思議というより、実際にあったのだろうなあと受け止める事が出来ました。


また何より、前述した冒頭の始まり方が唐突なのに当然の様なのが、作品世界や登場人物の紹介に留まらず、この作品全体に共通する【在るものを在るが儘に受け入れる】自然さや滑らかさを象徴している様で素晴らしく。またサルスベリ、ダァリヤ、檸檬に葡萄と各章ごとに植物の名前が付けられた各章を読み進めながら、全体としてもなんとも優しくなれる読後感でした。

自然や怪異を当たり前に存在する世界が好きな誰か。あるいは植物好きな誰かにもオススメ。

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