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ラーメンと愛国

"本書はラーメンについて書いた本ではあるが、ラーメンの歴史そのものに何か新しい項目を付け加えたりする性格のものではない(中略)日本文化論であり、メディア史であり、経済史、社会史である。"2011年発刊の本書は僅か100年で『国民食』となったラーメンへの新しい視点を与えてくれる。


個人的には、いわゆるグルメ紹介としてではなく、明治にグローバリゼーションとして中国から伝わったラーメンが如何にして【国民食としてローカライズされたのか】また中国文化の装いをもっていたラーメン屋が作務やポエムにラーメン道と、いつ【和風、ナショナリズムを伴ったものになったのか】といった視点で取り上げているのが興味深く本書を手にとりました。

さて、本書では敗戦後の食糧不足とアメリカの小麦余剰処理が結びついた事で、ラーメンとナポリタンが国内に意図的に定着する一方で、大量生産技術を学んだ安藤百福が【工業製品としてのラーメン】チキンラーメンを普及させたとの紹介から始まり、復興期から高度経済成長期へ。田中角栄の"日本列島改造論"により地方が個性を失う中で、観光資源としての【地域の個性や特性を反映したものではない】ご当地ラーメンが偽史として捏造されていったと展開していくわけですが。(例えば北海道の味噌ラーメン化とか)昭和史を振り返る様な懐かしさもあり、雑学的に面白かったです。

また後半では、90年代にテレビのリアリティショーとしてのラーメンスターの誕生、利益追求としてのメディアミックスの中で【作務系としてのラーメン屋スタイルが完全定着】また女性をターゲットにした"和コンセプト"店舗の人気により全体的に【日本の伝統を装うようになった】と中国の食文化から日本文化として"表層的な日本回帰として"趣味的ナショナリズムを背負う様になったと説明しているのですが。ラーメン好きには少し抵抗があるかもしれなくても、著者が決して悪意をもって論じているわけではない事から【これはこれで】興味深い視点だと感じました。

食としてのラーメン自体が大好き。といった人ではなく、ラーメンを通じて日本文化や社会を振り返りたい誰かにオススメ。

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