フォロワー1~100人目

 初めての投稿を行ったのは深夜だったように記憶している。気持ちが萎えないうちにとりあえず何かしらをネットの海に放り込んでしまおうと思い、一作目は自己紹介のみに終わった。タグを鬼のように盛りまくったため、いいねはある程度ついたが肝心のフォロワーは全く増えなかった。絵も汚いし、話も全く進展していないのだから当然だろう。しかし、この時点ではなにも焦ることはない。ある程度本数を重ねない事には話として何も面白くない上に、きちんと更新を続けられる人間だという信用が得られない。次の投稿があることを期待してユーザーは俺をフォローするのだから、今の時点でフォロワーがいないのは当然のことである。

最初はタグ検索から似たような漫画を描いている人間にいいねを付けまくった。ある朝目覚め、大いに驚いた。いいねの他にコメントが来ている。男性目線での漫画は少ないので楽しみだ、という内容のものだった。いわゆる「脳汁が出る」という感覚が俺の内側で弾けた。コメントを返し、そのユーザーをフォローする。フォローバックが来た。彼女は俺のフォロワー第一号になった。

そのユーザーは俺がいいねをつけた投稿者の内の一人で、同じように恋活漫画を描いていた。漫画描き同士のフォローというのは、フォロワー数の増加とか相互に影響しあって有名になる事とか単純な仲間意識とか、まあいろいろな思考が絡み合って発生する。なのでその後二、三回投稿を行い、初めてロム垢(投稿を見るためだけに作られたアカウント)にフォローされた時もかなり興奮した。こいつは何の見返りも求めず、ただ俺の漫画を読むためだけに俺をフォローしてきた。それだけで何かが肯定された気持ちになった。

投稿が進むにつれて俺もデジタルで絵を描くのに慣れてきて、作画のクオリティも少しずつ上がっていった。四回目からはサムネイルを見やすいものに変え、閲覧数も大きく増えた。一番フォロワーの数が増えたのは、第五回目の投稿だった。内容としては出会い系を始めてすぐに通話した相手がこれまでに会ってきた男について語る、というものなのだが、自分でも割と面白い話を聞いたと思っていたので自然と制作にも力が入り、このような結果になったと思われる。この時まではかなり調子に乗っていたし、ひょっとして俺は天才ちゃうか?と思うようにもなっていた。

 このころからフォロワー数についての研究はかなりしていた。具体的には似たジャンルの漫画で数万ものフォロワーを稼いでいるアカウントのフォロワー数の推移を、過去の「フォロワー〇人記念」投稿から分析していた。その結果フォロワーが一度1000人くらいまで伸びてしまえば、その数は一瞬で二倍・三倍にもなることが分かった。この点はSNSを仕事の一部としている友人も賛同していたため、間違いないと思う。1000フォロワーなんてこのまま行けば一瞬だ。俺は本気でそう思っていた。

 しかし六回目の投稿への反響は少なかった。この回には俺がそこそこ気持ち悪い言動をしてしまうため、女性からの賛同が得られなかったのではと思った。しかし後になって見返してみると、演出や間の取り方が非常に雑だった。天狗になった結果がこれである。フォロワー数は微増し、いまいち釈然としない気持ちのまま俺は100人目のフォロワーを得た。