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汽笛を止めるな!

 個室を二部屋ほど挟んだ先には、強化ケブラーのコートと俺の相棒だった住吉が穴あきチーズになって転がっている。

「お客様、切符を拝見いたします」
 
 カチカチ検札鋏を鳴らす車掌長。
 楽な仕事ではないのはわかりきっていたが、ここでの最悪の事態に俺はいらつき、焦る。
 緩急車は目の前だが、あと数分もすればこの列車を止める機会は失われる。
 俺は腰の銃に手を伸ばすが、弾はもう殆どない、切り札もこいつに使えば、任務達成は困難になる。
列車がガタリと大きく揺れると車掌長のボディが蒸気を噴き出した。
 俺はドアを蹴破って、客室にとびこむ。 

「なにね?!」

 客が叫ぶ。
 刹那、客室の壁がバチバチ客ごと喰い破られる。
 腕だ、車掌長の腕が薙ぎ払いながら食い破ってきたのだ。その腕から肩にかけて内蔵された無数の検札鋏が木片、肉片を喰い散らかしている。

「お客様、切符を拝見いたします」

 大きく裂けた、壁からぬうっと車掌長が顔だす。その顔にもバチバチと鋏がうごめいている。
 俺は引き金を引く。車掌長の顔に弾は当たるが無数の鋏が弾を喰いちぎる。

「車掌への暴力行為は禁止されています」
  
「客にはいいのかよ?」

 俺は客の死体をぶつける。
 一瞬車掌長の鋏が鈍る、だがこの一瞬さえあれば十分だ。狙いをつけて撃ち出した弾は鋏と鋏の隙間を縫って車掌長の中を跳弾した。

「これが切符だ」

 動きの鈍った頭部に打ち込んだ切り札は眩い光を発し、爆音とともに俺の意識はとんだ。
 『今回』は、役割は果たせただろうか?

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