見出し画像

cotree研究所を作りたい

cotree研究所を作りたい。
できれば、今年中には。

---

私の勤め先であるcotreeは、オンラインでカウンセリングやコーチングを提供する会社だ。

私はWebエンジニアとして働いている。Webエンジニアといっても、単に言われたものを作っていればよい立場ではなく、どのような機能や仕組みがあれば、もっとユーザによい体験を届けられるか、ということも考えなければならない。そうすると、臨床的な知識や観点がどうしても必要になる。

だが、知識が足りない。

Webサイトを作るとなると、望む望まざるに関わらず、様々な意思決定をすることになる。だが、この判断で本当に正しいのか? 良い方向に向かっているか? ということを考えるためには、知識が全然足りないのだ。

単に私がその知識を知らないだけなら、他の人に聞けばいいじゃん、と思う。

実際、詳しい人を探して話を聞く、という活動を年がら年中しているわけだが、しかし、誰がその知識を持っているのか、誰かに聞けばいいのかも分からない場合もある。中には「これはまだ人類の誰も知らないことなのではないか?」と思うものすらある。

以下に、現在、自分が考えているテーマを列挙してみる。

-----

カウンセラーとクライアントのマッチングの「相性度」を判断するためのよりより指標はあるか? そもそもカウンセラーとクライアントの「相性」をどう定義すべきか?

オンラインカウンセリングと(通院先などの)医師との連携の仕組みはどうあるべきか? どのような情報連携が必要だろうか?

身の回りに心の調子を崩している人がいた時に、カウンセリング(や他の社会資源)を紹介しやすくする仕組みはあるか? 例えば、家族や友人が、情報提供をしやすくなるようなリーフレットは作れないだろうか? 逆に言われるとツラいこと、パターナリズムになってしまうような危険性のあるものはなにか?

・クライアントが選びやすい「カウンセラーのプロフィール情報」とは何か? どんな情報があれば、クライアントはカウンセラーを選びやすいのか? そもそも、クライアントが複数のカウンセラーから担当カウンセラーを選ぶときの体験とはどのようなものなのか?

・オンラインカウンセリングを使用するクライアントが、自分の今の状況や期待をカウンセラーに伝えるためには、どのような仕組み・フォーマットがあればよいか? カウンセラーがクライアントとよりよい関係を構築することに貢献する情報とは何か? そもそも、クライアントがオンラインカウンセリングを申し込む時の心情・体験は、どのように理解したらよいのか?

オンラインでカウンセリングを提供しているカウンセラー同士でお互いの技術を共有・向上するための仕組みはどう作ればよいか? カウンセラーが自分のセッションや技術を振り返るための枠組みや概念には何があるか? システム的に計測や可視化できるものはあるか?

----

臨床心理の伝統から見れば、「オンラインでカウンセリングを提供する」ということは、かなり新しくて挑戦的な試みである。今でこそ一般に受け入れられつつあるが、創業当時は様々な反発もあったらしい。

今までほとんど誰もやったことがないことをやっていれば、当然、まだ十分に研究されていないテーマにぶつかることが頻繁にある。

例えば、上記に上げた「クライアントがカウンセラーを選ぶ」という状況はその一つだ。

一般的なカウンセリングルームでは、最初に予備面接を設け、その内容を元に、カウンセリングルーム側がそのクライアントに合ったカウンセラーを選ぶ。そもそも「クライアントがカウンセラーを選べる」という状況自体が、かなり稀なものだ。

そのため、「クライアントがカウンセラーを選ぶときに、どのような体験が良いのか」という問いは、臨床の専門家ですら、ほとんど考えたことがない問いだったりするらしい。ちゃんと先行研究を精査できたわけではないので確実ではないが、「Web上に記載された情報を元に、クライアントが主体的にカウンセラーを選ぶ」という状況は、ほぼ研究されていない、未開拓のテーマなのではないか。

もちろん、臨床経験が豊富な人の意見を聞いたり、クライアントにヒアリングしたり、手もとのデータを解析したり、仮説を立てて検証したりと、できる範囲での努力はし、自分たちなりに良いものを作っているつもりではある。とはいえ、専門的な研究者には、やはり及ばない部分が多い。

-----

正解がわかっていなくても、意思決定しなければ先に進まない。

いわば、我々のビジネス活動は、半分「アクション・リサーチ」のようなものだ。未開拓の領域を自分たちで試してみて、その結果を分析し、知見を溜めて、それを元に次の仮説を立て、改善を回していく。
クライアントやカウンセラーも巻き込み、手を取り合いながら、カウンセリングやコーチングに関わる全ての人にとってより良い「仕組み」を作っていく、というのがオンラインカウンセリング・システムの開発者である私達のミッションである。

だからこそ、社内に研究部門を作りたいなぁ、という想いがある。ちゃんとした研究者がいれば、40%の精度の意思決定を、70%くらいには上げられるのではないか。一つ一つの仮説検証の精度や改善の速度を上げられるのではないか。

必要な知識は単一ではない。社会調査のスキル、統計解析のスキル、文献調査と読解力、ビジネス的なPDCAの回し方、臨床家としての経験、クライアントや当事者側の観点、マーケティングスキル、仮説を実装に落とし込むデザインスキルやプログラミングスキル、などなど。もちろん、「アクション・リサーチ」を行うには、十分な倫理的配慮がもとめられる。それにもまた、精神医療倫理や障害哲学、市場倫理、(医学)研究倫理の知識がいる。いろいろな観点を持つ人が互いに議論しながら、前に進んでいける場所を作りたい。それは学術を志す学生にとっても、エキサイティングで面白い場所になるのではないか。

----

そんなわけで、cotree研究所を作りたい。
どこから手をつけていいかまだ分からないが、ひとまず新年の抱負として、これを記す。※1

----

【追記】上記に記載したテーマに興味がある方、すでに研究している方、(個人的な経験のレベルでも)知見を持っている方、cotreeを研究フィールドにさせてくれという方、などなどいれば、ぜひご連絡ください。ランチを食べながらディスカッションしましょう。twitter: @piyoketa mail: chiba@cotree.jp

※1 今年の第一週にこの記事は書いていたが、リリースを忘れていたので1月下旬のリリースになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?