第137回 憧れプリーツ


近頃プリーツスカートがきていると思うのは、私だけだろうか。
ファストファッションからハイブランドまで、様々な素材を使ったプリーツスカートが目を引く。丈はもちろんロングかマキシだ。季節柄軽やかな生地が多いが、動きにつれて揺れ動くプリーツは目にも楽しい。

プリーツスカートといってまず思い出すのが、中学高校の制服である。
中学時代はセーラー襟のブラウスとプリーツスカートというセットアップであった。高校はブラウスにジャンパースカートだったのだが、そのジャンパースカートのウエストから下の部分が切り替えでプリーツになっていた。
制服というのは何度も買い換えるものではなく、入学の際に何組か用意しておいて、それを取っ替え引っ替えしながら3年間過ごす。素材はウールで丈夫にできているため、3年の間何度もクリーニングしながらも耐えてくれるのだが、それでもほぼ毎日着続けるのだから劣化は免れない。
3年生のある日の放課後、いつものように階段を一段飛びで駆け上がった時に、思いっきりスカートの裾を踏みつけてしまった。年月に耐えて相当生地が弱くなっていたのだろう、丁度ウエストの切り替えの部分で左の腰から右の腰まで、つまり前半分を見事に水平に引き裂いてしまったのだ。
ここまで派手に破くともはや直しようがなくなる。ましてやプリーツを折り畳んで縫いつけてある部分である。悲惨な状態になったそのジャンパースカートをどうやって取り繕って帰宅したか覚えていないのだが、修復不可能となった制服を前に母親にえらく怒られたことだけはよく覚えている。

プリーツの起源は、紀元前の古代エジプトだと言われている。
プリーツのヒダが太陽の光に似ていることから、太陽神の象徴として神官がプリーツの服を纏っていたとのことで、壁画にも残っているそうだ。
中世の西欧では女性は裾の長い服を着ていたため、歩きやすくするべくプリーツを使用するようになったというが、古代エジプトから随分と間が空いている。その間プリーツはどうしていたのだろう。東欧やボリビアの民族衣装にはあるとか、ギリシャやバルカン半島では動きやすさから男性の戦闘服に用いられたという情報は聞かれるが、あまりプリーツの存在は歴史には出てこない。
プリーツは布地を折り畳むため、使用する布の量は通常の3倍以上かかる。縫うのに職人による手作業が必要な上に、当時はプリーツを恒久的に保つ技術がなかったため、一般の人には手が出ない高級で手間のかかるデザインであった。
第二次大戦後に合成繊維が発明されたことで、半永久的にプリーツを保てるパーマネント・プリーツ加工が可能となる。それによりプリーツはやっと庶民にも手が届く存在になったのだ。

ファッションの世界では、やはり三宅一生の「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」が白眉であろう。裁断・縫製後にプリーツをかけるという独自の製法で作られたその服は、体型に合わせて縫われる西洋の服の立体性と、どんな体型にでも合わせられる日本の着物の柔軟性の両方の良さを兼ね備えた、服の概念を変える革新的な製品であった。
体型を選ばず、動きやすく、扱いやすい。小さく畳んでもシワにならず、洗うのも簡単。プリーツの機能を最大限に活かしたこの「PLEATS PLEASE」(このネーミングセンスがまた秀逸)は、一世を風靡した。
スコットランドのキルトも一種のプリーツスカートである。元々はタータンの大きな布をヒダを作って巻きベルトやピンで止めたフェーリア・モールと呼ばれるものだったが、18世紀頃に最初からヒダのあるスカート状に縫われているフェーリア・ベックが一般的となった。
日本では1984年に東京の頌栄女子学院が初めて、ブレザーとタータンチェックのプリーツスカートを制服として採用したとのこと。ちなみに70年代後半から80年代にかけて流行ったハマトラというファッションでは、同じタータンチェックでも、プリーツではなく巻きスカートがマストであった。

プリーツスカートには、ブラウスをインしてベルトでウエストマークするといったフェミニンなイメージがあるかもしれない。それはそれで王道で良いのだが、少々古風にも感じられる。
最近はXXLのフーディをダボっと着たところに合わせるのがお気に入りだ。
プリーツの懐は深いのだ。なんといっても布地量3倍である。
くれぐれも裾は踏まないようにしたい。


登場した単語:「プリーツ」
→英語のpleatsはヒダや折り目という意味のpleatの複数形。1940年頃まではヒダを表す語はplaitであったが、現在こちらは三つ編みなどを指すことが多い。
今回のBGM:「Eliminator」by Z.Z.TOP
→一昨年結成50周年を迎えたアメリカン・ロックの雄。ミドルテンポのリズムの繰り返しが気持ち良い。アコーディオンプリーツを思わせるというのはこじつけか。

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