第61回 カバンの中身


いくつカバンを持っていますかと尋ねられて、あなたはすぐ答えられるだろうか。トートバッグ、ハンドバッグ、ショルダーバッグ、ポシェット、サコッシェ、などなど。少し思いついただけでもこれだけの種類の袋物がある。ポーチなんか入れたらそれこそどれだけの数が家の中に存在するのか、考えただけで恐ろしい。
ことほど左様に袋物にはいつのまにか集まってしまうという魔力があるのだ。

小学校低学年の頃、なぜか突然母親が袋物作りに凝りだした。洋裁などはせず決して裁縫が得意でもなんでもなかったのだが、物差し入れから体操着入れ、果ては私がかわいがっていたパンダのぬいぐるみ入れまで、ありとあらゆるものを入れる袋物をせっせとミシンで縫っていた時期がある。こうやって書いて思い出してみると、単にその頃新しいミシンでも買ったのかもしれない。雑巾ばかり縫っているわけにもいかないだろうから、娘が小学校に持っていく物を入れるのに丁度良い、かつ簡単に縫える袋物を作ったのだろう。せっかくだから服でも縫えば良いのに、ひたすら直線的に縫えばできる袋物を大量に作り、母親のブームは終わった。
今にして思えば、30センチの物差し入れの袋など全く汎用性がないので、それに物差しを入れてランドセルに挿して通った時期はわずかだったに違いない。一方同じ細長い袋物でも、リコーダー入れは結構長く使った覚えがある。いずれにせよ応用が効かない袋物であったことは事実だ。

それにしてもポーチにせよバッグにせよ、なぜ袋物を見ると欲しくなってしまうのだろうか。こないだ買ったポーチはちょっと小さめだったからバッグに入れる用にしてこちらは旅行用にとかなんとか、自分に言い訳をしながら手に取ってしまうことでまた袋物が増えていく。
実際問題としても、これぞというような使い勝手の良い理想の袋物には、なかなか巡り会えないものである。もう数センチマチが広かったら、ショルダーの紐が太かったら、中のポケットがもうひとつあれば、猫の毛がつきにくい素材だったらと、ほんの少しずつ理想からずれているがために、我々は延々と袋物探しの旅を続けざるを得ないのだ。
そしてまた袋物というのは、目的別にその形や大きさが異なるときたもんだ。化粧品を入れるポーチとモバイルバッテリーを入れるポーチは違わなければいけない(同じでもいいのではと言ってはいけない、違うのだ!)。出かけるにしても、ショルダーにするかトートにするか、持っていく荷物の量で変わってくるし、2つに分けるかひとつにまとめるか、その日の体調や気分にもよる。そうなるとほら、多種多様な袋物が必要となるではないか。

古典的な少女のイメージとしてはやはり、無造作にポケットに財布をねじ込んでいくというよりは、ハンドバッグにこまごまとしたポーチを入れて出かけるという感じだろうか。そういえば最近は古風なハンドバッグをあまり見かけなくなったような気がする。
それにしてもそうやっていろいろなバッグを使っていると、バッグを入れ替えるたびに何かを入れ忘れる。バッグインバッグなどというものが出てきたのも、そうやって入れ替えるたびに忘れ物をするのを防ぐ目的だろうが、その結果またも袋物が増えてゆくのだ。
ああ、どこまでも続く袋物の旅よ。


登場したバッグ:サコッシュ
→サコッシェではなくサコッシュだというのは、アタッシュケースではなくアタッシェケースであるのと似ている。いや、逆なんだが。
今回のBGM:「Eureka」by Jim O’Rourka
→素朴なフォークソングと見せかけて、かなりクセの強いマニアックな音楽。延々と展開されるモチーフはロードムービー的か。それにしてもこのジャケットはこれでいいのか…。

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