第55回 ポーセリン・スキン


食事をする時、お茶を飲む時、あなたは食器にこだわる方だろうか。
普段家で食事をする際には、ご飯茶碗や湯のみやマグカップといった類はいつも決まったものを使っているというケースが多いだろう。職場でもお気に入りのマグにコーヒーを入れて一息つく、という人は多いと思う。
ただ料理の盛り付けには、さてどの食器を使おうかと悩むかもしれない。その場合サンマを焼いたものを洋食器の白い丸皿に盛るということは、あまりないのではないか。もちろんこだわりと美意識をもってそのようにするということはありだ。しかし現実的な選択としては、焼き魚は和食器の角皿に盛る方が、収まりがいいし見た目もいい。反対にカレーライスを角皿に盛るのはなかなかの技がいる。

気持ちの余裕がある時、ちょっと良い食器を出してお茶にしようと考える。大事にしまっておいたカップ&ソーサーを出して、きちんと茶葉から紅茶を淹れる。本来洋食器は6客揃えるものだが、実際は置く場所もないし経済的にも大変なのでせいぜい揃えても2客くらいなのだが、それでもロイヤル・アルバートやウェッジウッドなどの食器で飲む紅茶は、気分的にも美味しく感じるものだ。
有名ブランドの食器なんて勿体無くて使えない、と思うかもしれないが、意外と丈夫で使いやすかったりもする。我が家で一番活躍しているのは、ロイヤル・コペンハーゲンの「ブルー・フルーテッド・ハーフレース」25㎝の丸皿だ。普通の料理もなんだか美味しそうに見え、それこそカレーライスなんかもとても映える。思えばこの白地に藍色という配色は、和食器でも一般的なものだ。なのでこの皿は洋食器にもかかわらず、日本の食卓になんら違和感無く溶け込み、納豆と並んでも平気な顔をしていられるのだろう。

母親が食器道楽であったため、子供の頃家にはやたらと食器が沢山あった。親子3人しかいないのになぜという程の量だったのだが、親子でも好みが違うものなので、家を出るときに持たされた食器は実はあまり使っていない。上述の皿も結婚祝いでいただいたものだ。新しい生活を始めたときに、少しずつ自分たちの好みの食器を集めていくのが楽しかった。
硬く怜悧な磁器もいいが、軟らかくて温もりのある陶器も捨てがたい。ジアンというフランスのブランドの色鮮やかなプレートは、見ているだけでわくわくするし、カップの優しい手触りも良い。
もちろん和食器にもまた様々な特徴や良さがあるし、伊万里や有田といった有名どころでなくても、使い勝手の良いものは沢山手に入る。唯一和食器の欠点は、あまりにも形のバリエーションが多いため収納に苦慮するということである。洋食器は皿なら皿で大きさの違いだけなので、重ねるのに苦労するということはないのだが、和食器は同じ皿でも丸皿と角皿、角皿の縦横比率もまた色々と、食器棚の中でもパズルのように組み合わせないとなかなか入りきらなかったりする。
それでも吹寄のような豆皿や蕎麦猪口など、つい集めたくなってしまう。最近はアンティークの食器にも人気があり、金継ぎなどの手法を用いて大事に使い続ける意識も広まってきた。

実用的でなくても手入れが大変であろうとも、少女たるもの美しいものを愛すべき、ということで、手に入れたいと思いながらもそのあまりの繊細さに躊躇する憧れのブランドがある。それが台湾のフランツ・コレクション。
いつか買います(多分、きっと)。


登場したブランド:ウェッジウッド
→言わずと知れた英国のブランド。「ワイルド・ストリベリー」などの可愛い柄ではなく、母親は「ジャスパー」というギリシャ彫刻風のレリーフをあしらったストーンウェア(釉薬がかかっていない器)を好んでいた。有機的過ぎて私の好みではないのだが。
今回のBGM:「叙情小曲集第5集作品54-4」エドヴァルド・グリーグ作曲 ピアノ演奏・スヴァトスラフ・リヒテル
→「ペール・ギュント」で有名なグリーグはノルウェー出身だが、初期の作品はコペンハーゲンで作られた。終生子豚のぬいぐるみと一緒に寝ていたというエピソードが微笑ましい。

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