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戦略、例外、アレオレ詐欺

最近はタイトルを語感で決めながら、中身を練っていくのが好みです。
今回は会社の国内知名度が上がるきっかけとか、海外本社の注目を浴びる転換点になりがちな大規模プロジェクトについて、きっと外資系IT企業ならどこでも起こりえるお話ですな。

戦略

“全社の命運を賭けた戦略プロジェクト”なんてお題で、過去に実績のない規模の導入プロジェクトが始まって、その成果を事例にコレまでの知る人ぞ知るSMB規模のお客さん主体のビジネスから日本のフラッグシップ顧客向けのビジネスにステップアップした。

なんてお話が外資系ITの日本法人の初期だけでなく成長を加速させる時期にはいくつかあるのが定番ですが、実態としては「意思はあり、計画と言うよりは願望に近い、能力が不足している」状態での成長チャレンジで全部揃った”戦略“として実現したっぽいお話は言うなれば「うまくいったので綺麗に盛ったぜ」なんて後付けサクセスストーリーがほとんどじゃないかなぁってのが実感です。

その中で”不足している能力“あたりは、これまでと違う規模のお客さんが必要とする機能や性能だったり、ビジネスプロセスとの適合性とか不適合な部分を製品機能で改善するのかお客さんのビジネスプロセスを変更させるのか、製品機能を改善するとしてそれって製品ロードマップのいつ頃に反映できるのかできないのか、とまあ多岐にわたる課題をなんとかお客さんと合意点を見つけて「だったら段階的にでも始めてみますか」なんて感じ。

なもんで、手探りで小規模のパイロット利用部門を決めてプロトタイプ構築から進めていくわけですが、まあ一言で言うと契約時点で明確になっていない要件部分の多くは「ベンダーでなんとかします。でも無理な部分は都度協議により判断しましょうね」なんて後回しになっているものが山積みなんですが、なんとか実績を作りたい(そして他の大企業に事例として提示したい)もんで、「大規模案件始まるぞ。これって成功させると日本だけじゃなくて、全世界でリファレンスになる案件だし、売上の貢献度も半端ないから全面的な協力よろしくな」なんて感じで本社の偉い人や開発部門含めてお願いしているものの、どこまで要件定義がフワッとしているかは伝わってない事って多いんですよ。

そうここからが本題で、その決まっていない部分や先送り課題をどうハンドリングするか、幸いにもそれがうまくいった暁にはどんな未来が待ち受けているかなんです。

戦略とは例外的に振る舞うことである

と誰も言っていないと思うのですが、要するに先送りの課題や要件を明確にして、それぞれの期限や対応を決定することが、契約後に始まるわけですが、その課題や要件の厄介な部分ってほとんど開発部門への機能拡張とか機能改善要求に回されちゃうんですよ。

だってお客さんのビジネスプロセスを変えるのって、単なるITベンダーの製品コンサルタントが担うのって無理があるんですよ、えっDXとかビジネスプロセスの改善コンサルタントとかもいるでしょって?そんな大規模な企業で専業のコンサルタントがまだまだSMB領域でしか聞いたことがないような製品を担いでるわけもないし、SMB領域でしかその製品を扱ったことがないベンダーコンサルタントには無理ですよ。

なもんで、お客さんも変えたくないし、お客さんの意向に沿っているかどうかで契約継続が決まるコンサルタントも、製品側でなんとかしろってモチベーションが強いのは当たり前。営業にしたってプロトタイプ終わって本採用で全社展開してこそのコミッションですよ。そりゃあ全力でお客さんの意向に添い遂げようとするんですよね。

そんな状況で、良くも悪くも「製品機能改善や拡張要求」もしくは「お客さんの期待する動作と異なる不具合(製品として期待する動作不具合とは言っていない)」をカスタマーサクセス部門って言うんですかね、カスタマーサクセスマネージャとかサポート経由で「開発に早くなんとか対応させろ」とか「この案件は戦略プロジェクトなので最優先で対応しろ」なんてお話になりがち。

いやそれ単に案件としてのフィジビリティ確認が甘い上に、製品開発や製品課題の解決プロセス知らない社内の顧客に対面する人たちが、「カスタマー(による俺のコンサルタント契約延長や俺のコミッション)サクセスのために(キリッ」って言ってるだけなんですよ。(マッタク耳に心地よい表現使って自分の仕事の手を抜いてんじゃねえよ)

そんな小言はさておいて、とは言えそんなグダグダを進めなきゃならんって事で、

  • 例外的な問い合わせ優先レーン設定

  • 例外的な課題管理体制とかリソース配置

  • 製品側じゃなくてお客さんのビジネスプロセスや運用変更で対応いただくための方法と理由まとめと言うか説得シナリオ作成

  • 製品開発や課題解決プロセスに準拠した製品改善や機能拡張スケジュールの開発部門との調整

などなど、歴戦のプロジェクトの後始末の経験者を採用したり社内から探し出して縁の下の力持ち的な感じで課題管理と解消に動くことになるのです。

まあ外資系であってもいざと言う時には、人海戦術だったり職務定義とかすっ飛ばして、偉い人からの号令やら泣きの協力要請含めた人材巻き込みを経て動くんですが、本来その課題管理を請け負うであろうコンサルタントは「他の有償案件にアサイン予定なんでー」とか、提案時に固めきれていなかったヤワヤワ要件のケツ拭きするべきSales Engineerは「ここから後はポストセールスのお仕事なんで(僕は別案件の提案に忙しいのだ)」とか、その上司含めて体良く逃げ切ることがほとんどなんで、「人間いい時より悪い時の方が人間性や仕事に対する姿勢が出るってホントだなぁ」と人生訓的なものを噛み締めてみたり、そんな状況に対して人格否定せず下品にならない表現でそんな方々をディスる社会人的悪口語彙力を獲得してみたりする経験で、枕を涙で濡らした夜は数えきれません。

そんなことはともかく、多くの場合その”戦略プロジェクトがこんな売り方でうまくいったので、他の大規模案件もこの売り方で“的なエッセンスは共有されるも、全くスケールしない例外的課題管理については忘却の彼方なので、よくわかってない営業が大きな声で「戦略プロジェクトです」ってマウントしてきても「それお客さんの期待値コントロールとプロジェクト参加する営業やコンサルタントの社内プロセス理解大丈夫だろね。社内プロセス理解も製品フィジビリティも理解してないと100%納期間に合わないし、例外プロセスが必要な案件が同時に複数出てきたら、単純に金額が大きく話が優先されるし、それ国内に限らず海外もだからほぼ日本の案件優先されないぞ」と歴戦の案件サルベージ屋さんが、優しく丁寧にぐぅの音も出ない網羅性を持って音速のカウンターパンチを喰らわせることもあるので要注意だぞ。

アレオレ詐欺

そんな戦略プロジェクトというか、例外的なプロジェクトがなんとか成功すると、それはもうその会社の伝説的プロジェクトになるわけですよ。
その成功を受けて無事プロトタイプから全社導入になり契約金額が跳ね上がり、全社会議で表彰された「あの案件の営業」として一躍社内で有名になり「青天井のコミッションだからあいつ5年分の年棒くらいのコミッション行ってるはずだぞ。来年の税金大変だな。」とやっかみ半分の噂話が営業部門でもちきりなのは序の口で、その案件で提案したSales Consultantも部門の売上貢献が予算超えで過去最高のコミッションで本人以外のチーム全員ウハウハ。
全社会議で案件成功の秘訣っぽいプレゼンを担当営業だけでなく、案件の提案に関わったInside SalesやSales Consultantや該当企業のキーパーソンを紹介した前任者や案件を担当したコンサルタントまで感謝の辞で紹介されて、別の営業部門からもその案件関係者が案件推進のノウハウ提供を求められたりするんですよ。
まあそんなちょっとした社内プレゼンスが高い伝説案件なので、毎月の中途入社社員向けオリエンテーションなんかでも営業向けに夢のあるそしてこの会社の成長ストーリーとして紹介しがち。

でオリエンテーションを終えて配属部門の方と歓迎会とかに行って聞きたてホヤホヤなもんで「あの案件凄いっすね」なんて言おうものなら、その案件周辺で提案資料を少し手伝ったり、途中の提案に同席したり、お客さんの関係者を紹介したり、直接案件の成功に貢献したわけじゃないけれど微妙にカスっていた人達も異口同音に「アレなオレがやった案件」って言うんですよねぇ。

なもんで微妙に案件と距離がある人ほど言いがちな「アレなオレがやった案件」発言を、通称”アレオレ詐欺“と言うようになったんですが、これってわりと共通ネタじゃないかなぁ。

そんな感じでこの著者が、記事へちょこちょこと書いているディスりや皮肉や悪口やボヤキっぽい語り口の原点は、おおむねこんな体験を通じて獲得した後天的な資質なんですよ。って事もバレちゃいますね。

(今回のStable Diffusionさんは、「フェルメール風、会議室の中でアレをやったのはオレだと主張する営業マン」でした。

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