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いつもあなたとカスタマーサクセス

顧客第一主義とかクライアントファーストとか昔よく言ってましたけど、最近よく聞くカスタマーサクセスって何が違うんだっけ?変わったような変わっていないようなカスタマーサクセスについて割と見かける残念な誤用も含めて語ってみるよ。

顧客の成功を実現する

言ってしまえばそれだけの話で、顧客第一だろうがクライアントファーストだろうが一緒な感じも大差ない気がするんですが、単なる掛け声じゃなくてサブスクリプションモデルのビジネス形態がIT界隈で増えてきて従来の売り切りとか押し込みじゃあ無理で「使ってもらって契約を継続してもらわなきゃビジネスとして成立しない」ので「価値を感じて使い続けてもらう=顧客のビジネスに貢献する=カスタマーサクセス」な図式でざっくり表される感じ。

それこそメインフレームやオフコンやサーバー含むハードウェアとその上で稼働するミドルウェアやアプリケーション含めて、いわゆるオンプレで初期費用かけて購入して業務用のカスタムアプリォ構築しようがパッケージで導入しようが、基本使用許諾権を初期費用で払って、別途費用をかけて自社向けにカスタマイズしたり開発したりで開発費用を払ったり、その運用だとか機器やソフトウェアの保守なんかに維持費を払ったりする従前のシステムのあり方だと「思ってたんとちゃう」と気付いたところでそこまでかけた費用は戻ってこない。

しかもソフトウェアなんて使用許諾権だから別の会社に売り払うわけにもいかないし、基本は契約するまでのハードルが高く一度契約すると使い続ける“ロックイン”とか“スイッチングコストが高い”とか“サンクコストが云々”って言われる状態だったので、お客さん側からするとそのシステムを使う以上は担当営業のみならず担当SE含めてベンダーの担当者をアサインしろって言いたくなるのが理解できるレベルの投資だし、システム部門なんてコストセンターだし、事業会社でシステム部門の仕事をしたくて新卒で入社する人なんぞほぼいるわけでもなく、使える状態にするまで不安が一杯なのがまあ通常。

ところが契約までは、どこまでも親身にみえた営業も提案に同席していた業務要件を理解してくれていたであろうSEが、契約した途端に手のひらを返したかのように「技術的なご質問はサポートにお問い合わせください」とか「僕らプリセールスなんで、新しいお客さんとってこないとクビになっちゃうんですよー」とか言い始めてふざけんなこのやろーな事態が発生しつつも、ここまで費やした時間や費用も考えると別システムに切り替えるってわけにもいかず…

なんて世界感がクラウド以前は通常だったんですよね。なもんでどんだけ顧客第一と言おうがクライアントファーストと言おうが、売る側の職務定義とあってない上に、契約書に記載された使用許諾にあたっての責任や権利以上のサービスが提供されないとかよくある話で顧客の成功ってなんだっけ?それってさすがにお客さんに失礼だし、信用を失って今後仕事もらえなくとマズいぞ、と考える営業ならびにセールスエンジニアが大多数ですが、割り切って売り逃げ的な方々も少なからずいましたねぇ…

それがクラウドで製品やサービスが提供されるようになって、初期費用もほぼかからないし、試してみて違うと思ったらサブスクだからすぐ解約できるし、お客さんからするとシステム選定の費用面や採用判断のハードルは下がり、売る側からすれば契約した後にどれだけ使ってもらえるようにするか、そのために必要な活用支援的な知識や情報をどんなチャネルとコンテンツで提供するか、なんてあたりが重要になってきたわけですよ。
なもんで

  • 継続利用してもらう状態=カスタマーサクセス

  • 継続利用を支援する人=カスタマーサクセスマネージャ(CSM)

  • 継続利用のための知識の提供チャネル=コミュニティ、ウェビナー、イベント、CSMによるアセスメント、製品サポート etc 

って感じで契約後の、利用促進とか定着化や技術問い合わせを担う従来のプリセールス/ポストセールスで言うところのポストセールス部門をカスタマーサクセス部門と表現する会社が増え、サブスクでの成功は「顧客の成功(製品利用を継続する=顧客のビジネスが成長する)によって、弊社製品やサービスを利用する顧客内外のユーザが増加し、既存顧客の追加契約とかオプション購入により我々のビジネスも拡大する」なんてあたりがザックリ定義なんですが、むしろこんなあたりの解説がもうちょい親切でいいかもね。

素晴らしきカスタマーサクセスの世界

理想通りならね。でもね想像してくださいよ。そんなカスタマーサクセスを指向した会社で製品やサービスを提案する営業やセールスエンジニアがカスタマーサクセスを最優先の行動指針とする純粋培養の人材揃いか。ほとんどは同業から中途で転職してきた従前の世界に慣れた人達なのは事実ですし、少しづつ新しい世界でのやり方でお客さんに接していこうとするんですが、ほら営業って売れてナンボの世界じゃないですか。

理想はわかるけれど霞を食って生きていくわけにはいかないし、一定期間売れないとPIPだとか上司との毎週の1on1ミーティングで恐怖のマイクロマネージメントが発動しちゃうんですよ。あの案件はどうなった?キーマンには接触できたのか?コンペリングイベントはなんだ?お前ホントにお客さんのペイン把握出来てるのか?…

こんなんじゃお客さんの成功以前に60:40のCompensation Planだからこれ以上売上ないとこっちが干からびちゃうし、それ以上に毎週の1on1の檄詰めで鬱になるわぁ、って感じで生きるために売る(あとは目を瞑ってポストセールスに任せた)。アレ?数字が上がったから上司も同僚も喜んでくれているし、なんとかなるじゃん。なんだ考えすぎずに数当たって売ればいいんだ

民名書房刊「とあるサブスク営業の心理または真理  」

こうして「顧客の成功(製品利用を継続する=顧客のビジネスが成長する)によって、弊社製品やサービスを利用する顧客内外のユーザが増加し、既存顧客の追加契約とかオプション購入により我々のビジネスも拡大する」が脳内変換されて「弊社製品を契約いただくことがカスタマーサクセス」的な解釈で活動する売り切り営業が粗製濫造される部門やチームもあるのですよ。(だから案件のフィジビリティと正しい期待値設定しろって何回もry

それカスタマーサクセスやないマイサクセスや

そんな感じの営業が増えるとわかりやすく特定の営業やチームや部門の解約率の高さとしてみえてくるわけで、持続性はない上に焼畑農業じゃないけれど、運悪くそんな担当にあたったお客さんからは信用も失っちゃうし、単年で解約されるとその営業もチームもコミッション減額とか翌年の売上予算に上積みされちゃうとかもあるので、基本抑止力は働くんですが、これが大規模案件の複数年のELA(Enterprise License agreementとかULA(Unlimited License Agreement)だと契約から実稼働まで結構長い期間かけてカスタマイズ(もしくは自社向け魔改造)しちゃってお客さんも引くに引けないとか、大規模契約のコミッションルールの整備が甘くて契約直後に複数年の金額換算のコミッションを付与しちゃって実稼働前にその営業が案件実績とコミッションを持って他社に転職しちゃうとか、正当な権利行使だけどそれどうよ。な事態もありがちといえばありがちなんですよね。

それでも地球はまわっている

そんな極端な、しかしどこにでもいる、マイ金銭的サクセス指向な方はともかく、会社としてコミッション制度バグを改定したり、短期解約率が高いチームや部門を監査したりしつつ、より健全な本来のカスタマーサクセスを実現する組織づくりをしているわけで、高額コミッション狙いのハンターさんには魅力が少ない方向に、クラウドネイティブな世代やカスタマーサクセスの本質に魅力を感じている方々にはよい方向に会社が変わっていってるのは事実。
そんな環境で従前のハンター気質の営業が多い環境かどうかを見極めるのは割と簡単で、会社の口コミ評判が掲載されているサイトやnoteで当該会社の社員の記事や退職エントリーで「組織内の営業の声が大きい(力が強い)」とか、「あの憧れの外資系会社に転職したら収入がn倍にその通過方法教えます(転職のポイント有料ノート)」的な記事で紹介されている会社あたりは個人的経験からもハンター気質の方が多いのはまあそりゃそうですよ。

まあなんだ。カスタマーサクセスとか言いながら、マイサクセスを優先させているとお客さんから信用を失うだけでなく、社内のカスタマーサクセス部門から協力得られにくくなったり、人材がグルグルしている外資系ITなので悪評もグルグルしてそのうち脚元をすくわれちゃうぞってのが定番の末路なので、曲がりなりにもAccount ExecutiveとかSales Reprentative名乗る立場なんだからExectiveとしての振る舞いや所属する会社の目指すカスタマーサクセスとはなんぞやってあたりを外さないのは代理人(Representative)として最低限の振舞いってことは忘れちゃならんよな。

(今回のイメージのStable Diffusionさんによる作品で「サイバーパンク風、黒と緑の背景のコンピュータルームにいるハンター」でした

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