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CRISPR Therapeutics $CRSP とAllogene $ALLO のallogenic CAR-T細胞療法について

こんにちは、ぴたごららです。
今回は先週allogenic CAR-T細胞療法のフェーズ1試験データが開示され株価が下落したCRISPR Therapeuticsと、その競合であるAllogeneについてまとめたいと思います。CAR-T細胞療法って?Autologus(自家)とallogenic(他家)ってなに?という方は以下noteで簡単に触れていますのでご覧いただければと思います。

はじめに断っておくと、極めて小額ですが私はAllogeneを個別保有しているので、意識的、あるいは無意識にAllogeneの良いところを見つけようとしていると思います。それを言い出すとCRISPRもARKKを介して間接的に保有しているのですが、個人的にはちょっと割合を減らして欲しいなとも思っています。ARKの細胞治療関連銘柄の選別基準ってかなり謎で、AllogeneはないのにCellectisはある、FateはあるけどNkartaはない、Novartis、Takedaはおそらくそのつもりで買ってるだろうけど、じゃあGilead、Bristol Myers Squibbは?と規則性が見出せていません。

Disclaimer:
本内容はニュース記事等をまとめたもので、内容の正確性は保証できません。正確な内容に関しては原文をあたってください。本内容、またそれに基づいた投資判断につき、私はいかなる責任も取れません。
また、本記事は特定の医薬品の使用を推奨するものでもありません。

”CRISPRの市場評価は現実に即していない”(2020年10月22日ニュース記事引用・意訳)

同社のallogenic CAR-T療法CTX110のヒト試験の最初のデータに患者の死が影を落とした。
待望されていた初期の結果は、CRISPRの「重力に逆らった」市場評価額と一致しなかった。最高用量のCTX110を投与された被験者の治療関連死が影を落とし、CRISPRの株価は14%下落した。
しかし、開示されたデータはこの死亡が偶発的な出来事であることを示しており、結果自体はCRISPRのアプローチをサポートしている。問題なのは、試験間での比較ではあるが、CTX110が5月に発表されたallogenic製剤のライバルであるALLO-501(Allogene)や、確立されたautologus製剤メーカーのデータとほとんど一致していないという事実である。
B細胞リンパ腫を対象とした第I相Carbon試験の結果を見ると、11名の被験者が4つのCTX110の投与量で治療を受けている。投与量レベル3である3億個の細胞治療を受けた4名の被験者のうちの2名を含む、計4名で完全寛解が得られた。その2倍の用量である投与量レベル4を受けた唯一の被験者も完全寛解したが52日後に死亡した。同社は、この用量での登録を一時停止したと述べている。
有効性という点では、AllogeneがASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表したリンパ腫対象のALLO-501データとすぐに比較されるだろう。ALLO-501では19名の患者が3つの用量レベルで評価され、12例の奏効のうち7例が完全奏効であった。重篤な有害事象は4件あったが、死亡例はいなかった。

持続性
有効性に関して重要なのは、両試験のデータが非常にimmature(未成熟)であるということである。Allogene試験の追跡期間中央値は3.8ヵ月であり、6ヵ月を超えた被験者は僅か2名であった。CTX110試験では3名の患者が投与後3ヵ月を経過している。
一度CAR-T療法に奏効した患者でも再発が問題になるが、これはリンパ腫よりも小児白血病でより顕著である。CTX110奏効例のうちの1名は、投与レベル2において6ヵ月を迎える前に再発している。CRISPRによると、3億個の細胞を投与された被験者(投与量レベル3)のうち1名で、3ヵ月間の完全奏効の前に再投与が行われており、再投与は現在ではすべてのコホートにおいてオプションになっているという。Allogeneは再発した1名の部分寛解例に再投与を行い、その後完全寛解に至ったとのこと。
別の問題は、これらの極めて初期のデータがNovartisのKymriahやGileadのYescartaと比較してどうなのかということである。これらの米国の添付文書には、完全寛解率32%と51%を含む、全奏効率が50%と72%と記載されている。

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CRISPRはアナリスト向けの電話会議で、患者の死亡はグレード2のサイトカイン放出が収まった後に起こったと述べている。しかし、被験者はその後脳炎を発症し、ヘルペスウイルスの再活性化が起こっていたことが判明した。同社は、免疫不全患者のウイルス再活性化が死因であるとした。

差別化
ALLO-501とCTX110は両方とも健康なドナーに由来し、かなり一般的なCD19 CAR-Tの構造をしている。前者がレンチウイルス導入+Talenヌクレアーゼを使用しているのに対し、後者はワンステップのCrispr/Cas9編集を用いており、内因性T細胞受容体をコードする遺伝子座での特異的なCARノックアウトをより簡便に行うことができる。
しかし、これまでのCTX110とALLO-501のデータがボーダーラインに見えるのであれば、allogenic CAR-T細胞療法の意味は何なのだろう。Allogenicの方が便利であり、すぐに治療が可能で、化学療法を行う必要がなく、質の良くないT細胞を持つ患者にとってはオプションとなるという議論があるが、autologusに比べてコスト面での優位性があると主張する者はほとんどいない。

筆者注:ここの「化学療法を行う必要がなく」という意味はわかりませんでした。

CTX110の後続には、BCMAを標的としたCTX120、CD70を標的としたCTX130があり、来年には両者の最初の臨床データが公表される。CRISPRの最初の臨床試験結果は同社のアプローチをサポートしたが、ホームラン級の時価総額$8bnには見合っていない。

データの解釈

まだ初期の少数例データなので、現時点でCTX110とALLO-501のどちらが臨床的に勝っているという判断は避けたいというか、できないと思います。Twitter上では死亡例に反応して「CRISPRのポジションを解消した方が良い」という声も見られましたが、Kymriah、Yescarta、Liso-celを見てもわかるようにこの治療法では残念ながら治療関連死が避けられません。株価の下落は明らかにpanic sellだったので、allogenic CAR-T細胞治療の未来を信じるのであれば買い向かうタイミングのひとつだったかと思います(CRISPRは事前にノーベル賞ご祝儀で上がっていたので何とも言えないですが、Allogeneもつられて下がっていました)。個人的にはautologusと比べて効果が著しく劣るということはこの先なさそうだと判断したので、Allogeneに限らずallogenic関連銘柄は長期で持ちたいなと思いました。ただいずれも初期段階なのでリスクは低くないと思いますし、画期的な抗体医薬なり低分子の新薬ができることで、準備から何から手間のかかる細胞治療自体がモダリティとして陳腐化してしまう可能性もあります。
また以下のtweetは何度も引用しているのですが、安全性懸念が持ち上がるたびにCrispr/Cas9の技術自体への疑念というのは浮上してきます。別にそれ以外の遺伝子編集技術が絶対に安全という訳ではないですが、同技術の「安い、早い、うまい」みたいなキャッチフレーズは目につきやすいというか、市場が弱気になったときに不安を煽りやすいとは思っています。

↑Crisprをエイリアン・バクテリア由来のジャンクと煽る御仁。ただこの方に限らず、なんでCrispr/Cas12でなくCas9なの?という意見も目にしました。詳しいことはわかりませんが、Cas12の方がよりpreciseとのことです。

以下はautologusに比べてallogenicがどのように優れているかをまとめたAllogeneのスライドです。Off-the-shelfなので製品自体には100%ありつけるし、待機期間も短いので実際に治療に至る確率も高い、再投与も比較的容易にできる、と主に利便性が取り上げられています。治療対象は一刻を争う致死的な疾患ですから、個人的には十分過ぎる特徴だと感じています。

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パイプラインもBMCA、CD70と、今後やろうとしていること自体は似通っていますが、Allogeneの方が細胞療法にフォーカスしているぶん、層は厚いです。

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 CRISPRとAllogeneの違い

今のところデータは比べられない、ではどこで違いを見出すか、ということですが、個人的には会社のマネジメントチームかなと思っています。Allogeneの共同創設者は2017年にGileadが$11.9bnで買収したKite Pharmaのメンバー(うち1人はKite自体の共同創設者でもあります)で、Yescartaを承認まで導いているという実績は大きいと思いました。

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前回がうまくいったからといって今回も大丈夫という訳ではありませんが、特に細胞治療のようにややこしい製造過程を経る医薬品に関しては、FDAの調査対応など過去のノウハウが物を言うと思います。詳しくは触れませんが、その他要職の経歴についても申し分ないかなと感じました。
あと主要株主にPfizer(直近の報告では17.6%のシェア)とGilead(6.0%)が入っているのも大きいですね、素人である私は何となく安心します。対するCRISPRはNikko Asset Management Americasが5.0%持っていて、ARK銘柄であることを再認識できます。
技術的なところは正直わからないことが多いのですが、AllogeneではCAR-T細胞上のCD52という標的タンパクが取り除かれているのが大きく違う部分かと思います。CAR-T細胞を投与する前処理として、抗がん剤を用いて患者のリンパ球を枯渇(lymphodepletion)させるのですが、その際にCD52抗体(ALLO-647)を同時投与することでより効果的にlymphodepletionができるとのことです。これは一長一短あるだろうと思っていて、ALLO-647も新薬扱いになりますのでそこで安全性懸念などが出ると「余計なことなんかしなければよかった…」となりかねません。

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また、上の図でぴろぴろしているRituximab認識部位を除去した後続品ALLO-501Aもフェーズ1試験を実施しているとのことです。非ホジキンリンパ腫などの血液がんで抗体製剤であるRituximabが広く使われており、直近で投与されている患者でもCAR-Tが影響なく使えるように(逆にこの部位を除去しておかないとCAR-Tの効果が弱くなる?)、あるいは将来的にRituximabとの併用でも使えるかも?という科学的配慮と理解しました。抗体は半減期が長いのでなかなか体内から消えません。

↑アメリカ在住のドナルド・トランプさん(74):
抗体を投与された彼から抗体が検出されたという衝撃のレポート。

その他、治験でもALLO-501のがん細胞認識部位と同じクローンを用いた治療が既になされている患者は除外するという設定を新たにしていたり、Allogeneは全体的にサイエンスに基づいたアプローチが垣間見えて個人的に好感を持っています。
いまのところざっくりとCRISPR、Allogenicしか見られていませんが、今後はCellectisやFateなどの企業も見ていきたいと思っています。

参考:
https://www.allogene.com/
Allogene Corporate Presentation September 2020
https://ir.allogene.com/static-files/2ef0daaf-e50d-4e5f-bbf0-af66e287e820

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