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第343号『銀河が泣いた虹が砕けた』

定期的に繰り返される『編集不要論』についての意見や議論を見かけるたびに、私はある言葉を思い出してその議論に終止符を打つようにしています。

あ、『編集不要論』というのは主に出版マンガ業界における漫画家さんと編集担当の関係性の話です。

現在は特に電子書籍やSNSなどで個人の作家が(編集を介することなく)出版すること自体が簡単になったことから「編集って必要無いんじゃないの?全部個人で好きなものを描いて発信したらいい」という意見に対しての論議の話です。

確かにひと昔前までは漫画家さんが自分の作品を発表できる場所は雑誌しかありませんでした。

だから必然的に漫画家さんはその雑誌の窓口である編集担当と向き合い、何度も打ち合わせをしてネームを繰り返し修正して連載会議にかけてもらうほかありませんでした。

しかし現在は色んな場所で漫画自体は発表できますし「不特定多数の読者に漫画を読んでもらう」という目的そのものは確実に(編集を介さなくとも)達成できます。

では、編集担当の役目とは『漫画家さんと打ち合わせをして作品をより良い状態にもっていくためのアドバイスをすること』だけでしょうか。

実はソレ以外にも、編集担当には重大な役目があるのです。

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ずいぶんと引っ張ってしまいましたが本記事のタイトルについて(ようやく)ここで触れておきます。

「銀河が泣いた!虹が砕けた!」

この言葉をご存知でしょうか。

この言葉は漫画内のセリフではなくて、いわゆるアオリと呼ばれる文章です。よく週刊連載漫画の最後のページにその回の盛り上がりと次号への期待を膨らませるために編集側で添えられる文章です。

「銀河が泣いた!虹が砕けた!」というアオリは過去に週刊少年ジャンプで連載されていたボクシング漫画『リングにかけろ』の見開きページに添えられていました。

主人公と宿命のライバルとの最後の試合で双方が放った『ウイニング・ザ・レインボー』と『ギャラクティカ・ファントム』の激突(注:ボクシング漫画です)を表現した見開きページでまさに虹と銀河が砕け散っていたのです。

その見開きページに添えられたアオリこそが「銀河が泣いた!虹が砕けた!」でした。

私は少年時代にこのページを読んで

「銀河が、泣く?虹って、砕ける、の?え、逆じゃない?銀河が砕けるのであって、虹は、あれ?泣く?虹って泣くの?あれ、これ、逆でも成立しないんじゃ?いや、よそう、考えてもわからないものはわからない、だってそれだけ理解を超えた闘いをボクらは目撃してるんだから、スゲェ、この漫画はスゲェ、とにかくスゲェ、というか今になって虹が泣くって言葉凄くない?って思ってきた、虹が泣く、なんてロマンチックな言葉なんだろう、そして更にそれを逆にしますか、なんてセンスしてんだ、心からスゲェって思う」

そう思いました。

そしてこのアオリを入れているのは漫画家先生ではありません。全て編集担当によるものです。

漫画家さんが仕上げてきた原稿に対して編集担当が(アオリ文を入れることによって)よりその号の盛り上がりを作って更に次号を読者に期待させるために考えて入れているものなのです。

凄くないですか?編集って。だってどんなに考えても「銀河が泣いた!虹が砕けた!」って言葉は出てこないですよ?なんなら漫画を描いている漫画家さん本人すらも出せないんじゃないですか?この言葉は。

漫画家さんと作品に寄り添って読者と常に向き合っている編集だからこそ出来る技術であり着想なんだって私は思っています。

だって、当時の『リングにかけろ』の編集者が誰だったのかを私は知りませんが、このアオリ文だけは作品と共に今もなお心に深く刻まれているワケですから。

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出版マンガ業界を外からパッと見るだけでは編集者ってなんか『漫画のネームを通してくれるかどうかを判断する最初の関門』という印象だけを抱いていしまっている人が多い気がして、「決して編集の仕事はそれだけじゃありませんよ」ってことが伝えたくて今回の記事を書きました。

いいですか。編集の仕事の中で最も大事なことは『連載を始める』ことだけではなくて『連載中の漫画作品を絶対的に盛り上げて人気作に押し上げていくために何でもやって時には銀河を砕く行為である』ということです。

これは何も出版マンガ業界における漫画家さんと編集者の関係に限った話ではありません。

ゲーム業界に当てはめると開発者とプロデューサーの関係性と同じなのかもしれません。

作ることと確実に売ること。

『売れないのはその作品がつまらないから』で終わらせるのではなく『その作品の魅力を分解してより多くのお客様に届けること』が最も大切なことだと思いますし、それぞれの役割や責務を全うするということはそういうことなんだって思いますし、全ての仕事がそうであって欲しいと切に願います。

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後半部分はこのまま同じテーマの話を延長線的にしていきたいと思います。

サイバーコネクトツーでは過去に『.hack』というオリジナルRPGを制作しました。そのシリーズの2作目に『.hack//G.U.』という作品があります。

その作品を世の中に出す時につけたキャッチコピーを引用しつつもう少しだけゲーム業界におけるプロデュース論について語っていきたいと思います。

あきらめなかった者たちへ

実はこの『あきらめなかった者たちへ』というコピーは世の中に出ることは無く、実際に採用されたのは『闘い続けた者たちへ』というコピーでした。

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