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第314号『ゲームにおける演出論②』

『演出』とは本来、テレビドラマや映画・アニメなどの映像制作における音声や演技などをより効果的に演出する人のことを指していて、監督=ディレクターを直接指す場合もあります。

ただ、アニメーションの監督などは立場上シリーズ全話を通じた総監督というポジションに立つ場合が多く、演出の人は助監督と呼ばれたりもします。

各話数ごとに演出を行うエピソード単位の監督=演出となっていたり肩書というか役割は業界によってまちまちですが、要するに「その場面をより効果的に魅せるための判断や指示を行う人」のことを指します。

よくアニメ業界なんかでは演出→助監督→監督というステップアップのイメージもありますが、これも各現場によって解釈が違ったりもします。

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実はゲーム業界ではあまり『演出』という立場の人がポジションとして置かれることは多くありません。

というか、ゲーム制作の現場ではほぼ意識されていないように見受けられます。(これも各会社・チームによって異なるようです)

弊社サイバーコネクトツーではアニメーションの現場の制作スタイルや文化を多く取り入れていることから、結構な頻度で『演出』というキーワードが開発中にも飛び交います。(このへんはどうやら他のゲーム開発会社と比較しても随分と特殊なようです)

私自身がサイバーコネクトツーの代表を務めるようになってから20年以上にわたって意識的に現場で『演出』という言葉を使用して指示してきた事から、弊社では割と日常的にこういった演出について議論が繰り広げられるようになりました。

今回はある種サイバーコネクトツーという特殊な文化を持ったゲーム開発会社内にある、『演出から生まれたアフレコ時のルール』というものを紹介したいと思います。

たぶん、他のゲーム会社にはこんなルールは存在しないと思いますしサイバーコネクトツーの独特な文化でありルールだと思いますが、クリエイティブの現場でのひとつの発想としてお役に立てれば幸いです。

今回も随分と専門的で特殊な『演出に関するルール』をご紹介しますので、同業のクリエイターの方や演出業・監督業をやられている方向けの記事になっていると思いますが、どうしても「勉強したい!」というブレイブをお持ちの方はどうぞご覧ください。

より理解しやすいように図解付きでご説明します。

ゲームにおける演出論② アイツコイツ問題

ゲームソフトのアフレコ収録はほとんどの場合が開発中(まだ絵が出来てないタイミング)に行われることが多いです。稀に「全ての絵が出来上がってから音声収録を行う」なんて現場もあるようですが基本的にそんな所はまぁ本当に少ないです。

現在のゲームソフトはワールドワイド戦略で世界同時発売が前提となっていますので日本語の音声収録が完了したらそれをもとに速やかに英語の音声収録を行う必要がありますので、だいたい開発中にアフレコを実施します。

例えば以下のようなシチュエーションを想像してください。

台本:
主人公Aが仲間Bと一緒にいて、その目の前に敵Cが立ちふさがる。
そこで主人公Aは仲間Bにこう呟きます。
「アイツは俺に任せてくれ」

ざっくりとしたイメージボードを添付するとこのような感じです。

アイツ

Bに対してAが「アイツ(C)は俺に任せてくれ」

だいたいアフレコ収録時には実際のゲーム画面が存在しませんので、こうした台本上の文章とセリフでシチュエーションを想像(想定)しながら収録を行うことが多いです。(今回は説明の為にイメージボードを用意しましたがそれすら無い時だってあることをお忘れなく)

はい、こういったシチュエーションを想定した上でアフレコ収録を行って、その後の開発でそのまんま同じ形で制作が進行すればなんの問題も発生しません。

しかし、だいたいがその後の開発でなにかしらの問題が発生してしまうのがゲーム開発の現場ってやつなのです。

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