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第337号『頭の中にあるうちは何でも傑作』

映画『何者』という作品の中でこんな台詞がありました。

「頭の中にあるうちは、いつだって何だって傑作なんだよ」

(正確に引用するとこういう台詞でした)主人公たちの大学時代のモラトリアムというか、「自分だって何者かになれるんじゃないか」と思い悩む大学生独特の心情を表現した素晴らしい映画でした。

そして同時に私の胸に一番刺さったのが、この台詞だったというわけです。

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ゲーム業界で仕事をしていると、よく周りの人間から「こんないいアイデアがあるんですけど」なんてことを言われたりします。

それは社内だったり社外だったり学生だったり全くの異業種の人からだったりと様々ですが、そのたびに私はこう伝えます。

「ユニークなアイデアをありがとうございます。しかしこの世界ではアイデアには価値はありません、ゼロ円なんです、そのアイデアを形にするチカラこそに価値があるんです。だからそれを体現できるチカラを身につけて見せてください」

まさに本当にこの通りなんです。いくらしっかりとした企画書を見せられたところで、それはやはり机上の空論なんです。

同時に(もっと厳しい言い方になってしまいますが)アイデアだけなら子どもだって誰だって出せるんです。考えることは誰でも出来ますので。

重要なことは、それを形にするチカラです。

漫画でもアニメでも小説でも映画でもゲームでも。頭の中で考えているだけなら本人にとっては最高傑作のはずなんです。

モノ作りって文字通り形にするチカラなんです。そしてそれが一番難しいのです。だからこそ、そこに価値が生まれるものなのです。

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もちろん世の中には考えることもせずに、アイデアすら出さない人も一方では存在しますので。考えているだけでマシ、という意見もあるかもしれませんが、やっぱりクリエイターになるのであれば(せっかくだし)自分が思っているものを形にするチカラを身につけて表現していきたいですね。

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これはとある芸人さんのエピソードを聞いて、まさに膝をパンと叩きたくなるほど痛快だと思った話なので紹介させてください。

めっちゃ楽ですよ、あなたもやったらいい

ある芸人さんがタクシーに乗車した後に、ほどなくドライバーに気づかれて「芸人さんですよね?」と声をかけられました。

「そうです」と答えると、そのドライバーから実に心無い言葉が飛び出してきたのです。

「いいですよね~、喋っているだけで簡単にお金が稼げて。そんな楽してお金が稼げるなんて毎日楽しいでしょー?」

世間話のつもりだったのかもしれません。それにしても随分と失礼な物言いだと思いました。そして同時に「その芸人さんはいったいなんて返すんだろう?怒る?ヘラヘラと誤魔化す?」といくつかの返しのパターンを聞きながら想像しました。

しかし、その後に芸人さんが返した言葉は私の想像のどれとも一致しないものでした。

「そうなんですよ、めっちゃ楽なんですよ、だからあなたもやったらいいですよ!」

パンッ!

実に痛快!これぞ芸人!お見事!と、このエピソードを聞いて私は思わず膝を叩きましたよ。

芸人としてのプライドとユーモアを感じさせる実に見事な返しです。当然ながらそのドライバーはモゴモゴと黙るしかなくなったそうです。

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私自身、ゲームソフトを作るという仕事をしていても、同様の言葉をかけられることはやはりあります。

「毎日好きなことやってお金が稼げて羨ましい」

「毎日ゲームばっかり遊んでるんでしょ?」

「毎日子どもみたいな生活してるんでしょ?」

「才能があって良かったですね、無才だった私たちは日々がむしゃらに真面目に生きて、必死に汗を流して実直に働く道しかありませんよ」

この手のことを直接言われても私の場合は「そうですね」と軽く流すことが多かったです。(どうせ説明してもわからないだろうし長々と話す価値もない相手だし、と思うようにしていました)

やはり、こういった部分は芸人さん=喋るプロには叶いませんね。本当に勉強なるエピソードでした。

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さて、後半は同じくこれも人から聞いた『ちょっといい話』です。しかし、その人が(関係者にとっては)かなり特定しやすい人物像とエピソードということになりますので取り扱い注意でお願いします。

「誰のこと?」という部分よりも、その考え方のほうが重要で立派ですのでその部分に注目して読んでいただけると幸いです。

版権元は『上』でも無いし開発会社は『下』でも無くて、みんなが対等なパートナーなんだよ

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