週刊少年松山洋_タイトル_修正

20歳の君へ

私が20歳の頃は大学生でした。

ある夏の日、大学の友人たちといつものように食堂でダベってました。大学に来てるのにも関わらず講義を受けに教室に行くでもなく、昼ごろに食堂に集まって珈琲を飲みながらダラダラとただ雑談しているような日々でした。

ある時友人の一人がこんなことを言い始めました。

“俺らもう3回生やん、20歳やん、今年の夏は【男を上げられること】をしようぜ。今まで行ったことが無い県に行って住み込みで長期アルバイトとかさ。できれば一番遠い所にしようぜ!”

その友人の手にはアルバイトニュース『an』が握りしめられていて、わかりやすく【遠くに行きたい!リゾート地のアルバイト特集】なんてコピーがデカデカと書かれていました。

発言の中に【男を上げる】なんて言葉が出てくるあたりが田舎(博多)の大学生って感じがしてなんか笑っちゃいますねw。

私の頃の大学ではまだまだ周りにヤンキー崩れみたいな人間も多く、車も普通にヤンキー車に乗っている感じでした。そして食堂で私と一緒にダラダラと雑談しているメンバーが正にソレでした。私自身は決してヤンキーではありませんでしたが、私の周りにはヤンキー風(見た目や趣味だけでヤンキーではない)の友人が多かったですね。

アルバイトニュースをみんなでペラペラとめくり、一番遠い県を探したらそこは栃木県でした。

“栃木……か”

自分で“一番遠い県”なんて言っちゃったものですから、もうそれがどこであれ受け入れるしかありません。

栃木県の那須高原という場所にある「グランドホテル愛寿」というホテルでの住み込みのアルバイトでした。

若者らしく“よし、いっちょやってみっか!”というノリで決行することになり、早速公衆電話で申込をして【栃木のホテルで43日間住み込みで働く】ことが決定しました。

行くメンバーは4人。

ケンちゃん(今回の言いだしっぺ・背が低いタレ目・愛車=シビック)
ミノル(顔が一番ヤンキー顔・あだ名は研ナオコ・愛車=クラウン)
コータロー(イケメン・なのにニキビ面・良識人・愛車=フォレスター)
(この頃は“まつぼう”と呼ばれていた・車無し・単車=ゼファー)

ホテル側から“着替えは下着だけでいい。他は全部支給するから何も持ってくる必要はない”という言葉を信じて(素直)、我ら4人は本当にまるで天神に買い物に行くような軽装で新幹線に乗って栃木に向け出発しました。

「グランドホテル愛寿」は栃木県にある那須高原というリゾート地(避暑地)の中にある大きなホテルでした。

ホテルに到着後、すぐに車に乗せられて向かった先は「洋服の青山」でした。そこでワイシャツ・スラックス・アンダーシャツ・ベルト・靴下・革靴・蝶ネクタイまで一式(全員分)買ってもらいました。しかもほぼ1週間の替えの分まで買っていたのでかなりの金額だったと思います。

それらを渡されて“ここにいる間はずっとこのホテルマンの格好だから。着てきた服は寮に置いてきて”って言われました。

本当に事前に言われた通り、持ってきたパンツ以外は全て支給してくれました。

こうして我々4人の【男を上げる闘い】と言う名の「43日間のホテル住み込みアルバイト」がスタートしたのです。

「ホテルの住み込みのアルバイト」の仕事内容は以下の通りです。

【①お客様の車を駐車場へ移動】
到着されたお客様はメインフロアに直接車を停めるのですが、そこからチェックインされている間にその車を我々が運転して離れた駐車場に車を移すという作業。お客様が外出される際も我々が駐車場まで行ってその車をメインフロアまで運転して前につけることになります。

【②チェックインからお部屋へのご案内】
4人で2チームに分かれて①のチーム2名が車を駐車場に運んでいる間に別の2名がチェックインからお部屋までの案内を行います。お部屋に到着後は夕食と朝食の時間と場所の確認、大浴場のご案内を行います。

【③夕食の配膳】
大宴会場で夕食となりますので、順番に食事の配膳を行います。厨房からあがってきた料理を次々に運びつつ、それぞれのテーブルでオプションとなるお酒の注文を取ります。食後のフルーツもオプションでした。夕食が終わった後は片づけまでがワンセット。各テーブルを片づけてテーブルクロスを張り替えて終了。

【④カラオケバーとダンスショー】
これも2チームに分かれて、それぞれ2名ずつカラオケバーとダンスショーの店員をやります。カラオケバーは割とどこにでもあるようなカラオケバーでお客様がお酒を飲みながら気持ちよく歌うのをサポート接客します。ダンスショーは夏の期間限定のイベントのようなもので、オーストラリアからやってきた4人のダンサーがダンスをするショーを観ながらお客様がお酒を飲むのでその注文を取ってお酒を作って持って行くのが仕事となります。

【⑤風呂掃除】
だいたい④までの仕事が終わるのが23時なので、我々がお風呂に入るのはお客様のお風呂時間が終わった後です。23時30分から大浴場が従業員に解放されて最後に我々が入って、掃除をやってから鍵を閉めます。

【⑥朝食の配膳】
翌日の朝は6時にホテルに行って朝食の準備を行って、順番に配膳をします。夕食の時と同じ大宴会場です。10時くらいには全てのテーブルの片づけが終わってテーブルクロスを貼ったら完了です。

これがだいたいの仕事。午前中の10時から14時までが休憩時間(お昼ご飯込み)となります。で14時くらいからその日のチェックインが始まるのでまたお仕事スタートとなってそれを毎日繰り返す感じです。

こうして仕事内容を並べてみてもわかる通り、およそホテルで働く従業員と変わらない仕事を毎日ギッシリと詰め込まれていました。

週に1日だけ当番制で洗濯をしました。従業員用の洗濯室があったのでそこで1週間分の洗濯物を洗って干して、寮に持って帰ってました。

実に規則正しい生活でした。

もともとが真面目な青年たち(顔がヤンキー風なだけ)ということもあって、コツコツと働きました。

しかし。

働き始めて3週間目くらいで「ある事件」が起きました。

『20歳の君へ』

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