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第299号『だが一流にはその先がある』

私の本業は当然ながらゲームクリエイターです。

最近は漫画の原作を書いたりアニメ企画を作ったり様々な宣伝活動の一環として色んな番組に出演したり学校講演も積極的にやったりもしていますが、あくまで本業はゲームソフトを制作するゲームクリエイターなのですよ。

しかし(性質上)あまり日常の中でSNS含めて具体的にやっているお仕事の内容について言及していないこともあってか、割とその印象=イメージは薄く捉えられがちですが毎日スタッフと一緒にゲームソフトの開発を行っています。

まさに現在弊社内で開発中のとあるゲームタイトルもいよいよその開発が佳境を迎えていて毎日現場と向き合ってはその内容やシステムや表現について話し合っています。

「時間が無いのはわかってる、わかってはいるけどもう少しだけここは調整しよう、というかやり直そう、いやだからわかってるって、時間は無いよ?けどね、こんな状態で世の中に出すわけにはいかないよ、ほんの少しの違いかもしれないけどこのままではやっぱり駄目だ、どうしてもOKは出せないよ、わかってる、時間は無い、だからこそどうすれば出来るのかを一緒に考えよう、そして何とかしよう、じゃあ今から具体的な方法を示そう、いいか、よく聞いてくれ」

もうほんと最近は(も)毎日がこんな会話ばかりです。

で、こんな調子で気がついたらもう会社設立から25年ですよ。

ずうーっとこんなやりとりを繰り返してきています。

で、最近ふと、誰かに言われたんですよ。

「これ、そこまでやることに意味あります?つかお客さんってそんなとこ誰も見ていないんじゃないですか?」

あ、もちろんウチの社内の意見では無いですよ?あくまで外部の方からの意見です。あまりにも何度も修正してやり直している様を見て言われてしまった言葉なのです。

がむしゃらに仕事をしているが故にずいぶんと盲目的になって本来あまりやらなくてもいい部分にまで過剰なクオリティを求めすぎているんじゃないの?という指摘ですよね。

わかりますよ。そういうご心配も。

ましてや他社の方ですから心配されるのはごもっともです。

おっしゃる通りかもしれませんよね?

ひょっとしたらやらなくてもいいことや、やったからといって必ずしもお客様が喜んでくれるとは限らない範囲にまで手が伸びすぎている、なんてことがあるのかもしれませんよね。

「否」

答えは断じて「否」です。

我々は絶対的に必要な要素についてのみ考えて適切な分量とクオリティをコントロールしながら精査して判断した上で全ての事をやっていますし指示をしています。

何より最も無駄を省きたいと思っているのは当の開発者である我々自身ですからね。

必要な事だけを適切に見極めて判断しています。

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最近、ニンテンドーSwitchでとある二つのゲームソフトをプレイしました。

忙しい開発の合間をぬってでも最新ゲームタイトルを遊んで最先端のゲームシステムやアイデアや技術&サービスに触れておくこともプロの務めですからね。

ここだけはサボるわけにはいきません。

さて、ここからは2021年1月に発売された二つのゲームソフトを私自身が購入してプレイした所感をお伝えしつつ、今回の記事のテーマの本質に迫っていきたいと思います。

全然ジャンルもメーカーも規模も異なる二つのゲームソフトをまるで比較しながら紹介していきますので、さすがに商品名を公表するわけにもいきませんのでこの段階では匿名タイトルとさせていただきます。

ゲームソフトA『とあるRPGタイトル』

ゲームソフトB『とあるADVタイトル』

ちょっとわかりにくくてイメージもしにくいかもしれませんが、今回の記事テーマとそれぞれのゲームソフトの詳細内容は関係がありませんのであまり気にしないでください。

先に言っておくと、この両タイトルはまさにクオリティという一面で両極端というかもっと平たく言うと「めっちゃショボくて酷いゲームソフトA=『とあるRPGタイトル』」と、「とんでもないクオリティの高さを持つゲームソフトB=『とあるADVタイトル』」ということになります。

そしてそのクオリティの明暗を分けている部分がどこなのか?ということを作品評価の第一段階のレベルで分解して解説していきます。

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ゲームソフトA『とあるRPGタイトル』

なかなか大層なコピーでPVを見る限りだったり、パッと見の印象だけでいうと「キャラクターの美少女も可愛くてゲームシステムも割と斬新で面白そう!」という感触でした。(だから購入しました)

しかしゲームソフトを起動してわずか10分で「ああ、駄目だこりゃ」という評価を私は個人的に下してしまいました。(その後60分遊びました)

いったい何が良くなかったのでしょう?順番に述べますね。

①テキストフォントが小さすぎる
よくゲームの中で表現されるキャラクターのテキストウインドウに表示されるフォントのことです。もうとにかく小さすぎて読みにくい。これはゲームを楽しむ以前の話です。基本的にストーリーを追いかけながら進行するRPGであるはずなのにそのテキストが読みにくいというのは致命的です。(単純にPS4とのマルチタイトルだったのでSwitchに向けてフォントサイズを最適化されていないということです)

②ロードが細かく暗転処理が雑
まずタイトル画面からゲームが始まるまでにローディングが挟まる時点で良くないです。(あらかじめ読み込んでおくというテクニックがあります)家の中から外に出る時に暗転して読み込んでるし、家の1階から2階に移動する際にもローディングが入っています。これはもう完全に設計ミスのレベルです。遊べば遊ぶほどストレスが溜まります。

③メタネタが小賢しい
ゲーム内の説明だったりテキスト会話の中に定期的にまるでふざけているようなメタネタが入ってくるのが癇に障ります。特にゲームを開始した序盤からこれをやられると、まだその作品のファンタジーや世界観にすら溶け込んでもいないのにただのノイズにしかなりません。

他にも『とにかくカメラが細かくコロコロ変わって気持ち悪い』とか『せっかく生成したアイテムが毎回1階から2階になぜか置かれてそれをプレイヤー自身がその都度取りにいかなければならないという謎仕様』だったり『「○○を入手しますか? はい/いいえ」と確認してくるところと自動入手する時とルールがバラバラで意味不明』とか色々と言いたいことはあるのですが、大きく3点を挙げさせていただきました。

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ゲームソフトB『とあるADVタイトル』

ゲームソフトの印象としては物語自体はイラストベースで進行するかなりスタンダードな作りのADVゲームです。ゲームが進行するとミニゲームのようなミッションが発生してそれをクリアしながらストーリーを進めるタイプのゲームソフトです。

冒頭から1時間程度プレイした時点での満足度は『極めて高』でかなりレベルが高いこれぞまさにプロの仕事という感じの印象です。

ではどこでそう感じたのかを述べていきますね。

①テキストフォントが適切なサイズで見やすい
これはもうお見事としか言いようがありません。まずテキストウインドウに表示されるフォントサイズがちょうど良く大きくて読みやすいです。またゲーム内に表示されるUI(ユーザーインターフェース)もその都度最適化されたサイズとフォントタイプになっていて美しさすら感じます。

②画面レイアウトが美しい
例えばゲーム画面の16:9の比率に対してキャラクターである主人公の画像をどの位置に配置してライバルキャラクターをどこに配置するか、という単純なレイアウトひとつとっても実に心地よいバランスで配置されています。これはキャラクターのイラストに限った話では無く、ゲージやモード表示なども同様に非常に計算されつくした美しいレイアウトで配置されていて画面の安定感・安心感が違います。(素人は気づかないレベル)

③適切なタイミングでミニゲームや選択肢が挿入される
イラストをめくるようにストーリーを進めている中でちょうどいいタイミングでまるで「お話を聞いていましたか?」という感じで選択肢が表れてプレイヤーに確認してきます。そのキーワードの重要度もちょうど良い感じで「それ選択させる意味なんてあるの?」と思うことが無い。

他にも『音楽やSE(効果音)などの演出の上手さ』やキャラクターが喋る『音声速度の倍速再生が選択可能』だったりと非常にプレイヤーが求めるであろうことをゲームソフト側で常に先回りしてくれているような印象でした。

*****

さてこれら二つのゲームソフトの明暗を分けたのは一体どの部分だったのでしょうか?

もちろんどちらも私が購入したゲームソフトですが『ゲームソフトA』はプレイ時間は1時間程度で断念して「もうこれ以上遊ぶ価値は無い」と判断しましたし、『ゲームソフトB』は「これから何時間かかろうと絶対にゲームクリアまで遊ぼう!」と考えています。

またそれぞれのゲームソフトが具体的に何というタイトルだったのかをここで明かします。その上でより詳細に解説していきますのでタイトル情報については口外することはご遠慮くださいね。

それでは本題に突入します。

「だが一流にはその先がある!」

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