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Holly heal® on Sunday みたけさやかさんインタビュー

Holly heal® on Sundayについて

 京都の糸屋さんから仕入れるファンシーヤーンを使って作るアクセサリーブランド「Holly heal® on Sunday(ホリーヒール オン サンデー)」では、蔵前や吉祥寺のセレクトショップでの販売のほか、数々の一流百貨店でポップアップストアとして出店し、商品を届けています。
 今回は、ブランドを作ったデザイナーのみたけさやかさんにお話を伺いました。もともと趣味で作っていたシュシュを知人が欲しがったことをきっかけに、商品の購入が社会貢献につながる「エシカル」をコンセプトに打ち出して事業化に踏みきりました。アクセサリーの制作は、障がい者就労継続支援施設の方や就労困難者の方が行っています。制作者の類稀なる集中力が、想像を超える高品質な作品を生み出しています。
 Holly heal® on Sunday立ち上げのご経験、福祉プロダクトがもつ無限の可能性、ブランディングの意義、ものづくりの面白さとは・・デザイナーならでは視点からの福祉プロダクトへの想いを伺いました。

良い品質の商品を一般流通にのせる手伝いを!

PIPPO森井:福祉との連携がはじまったきっかけを教えてください。

みたけさん:本当にいいモノを作りたいと思った時に、障がいをお持ちの方々の中で、モノづくりを得意とする方々にお願いしたら、内職さんよりも良いものが作れるのではないか?ということと、もし、見栄えで損をしているんだったら、見栄えを整えることが出来れば、一般に流通するものが作れるんじゃないかなっていう気づきから始めたんです。

PIPPO森井:その考えは温めてたんですか?

みたけさん:いえ、全く考えていなかったです。たまたま福祉に関わっている方々と出会うようになり、バザーは、「安くないと売れない」と思っている施設の方が多いと聞いたんです。ですが、実際には品質は良いのにパッケージが原因で一般流通にのってないなー・・・と感じるものが多くありました。ものすごい機会損失ですよね。私は、パッケージデザインを元々やってたので、パッケージを変えたら価格に0(ゼロ)ひとつ増やして売れる世界に持っていける、と思ったのもあるんですよ。

 しかも、高く売れると制作に携わっている方の自尊心も高まります。自分達が良いものを作っていて、一般の流通にのるということはとても重要です。そこで、そんなお手伝いが出来ないかな?と思ったことがきっかけです。

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アミートブーケを百貨店で販売するまでの道のり

PIPPO森井:いつから始めたんですか?

みたけさん:福祉向けのパッケージやデザインに関してはわりと最近で、2017年くらいから取り組んでいます。その前に、アミートブーケ※がありました。
(※アミートブーケ:5本の糸を編んで作るアクセサリー。シュシュやブローチなど様々な使い方ができる。)

2016年にクラウドファンディングをやることになり、誰と一緒にそのアミートブーケを作りたいかなと考えたとき、「障がいをお持ちの方と組んだらどうかな?」と思いました。

安く作ってもらう為ではなく、彼女や彼等の持ってるポテンシャルが素晴らしいことが理由です。実際、内職相場の4倍をお支払いして作っていただいています。後は例えば、集中力がすごくあったりして・・・本当に良いものは集中して作られたものだと思います。モノに対する愛情の込め方が違うと感じてもいます。「より良いプロダクトを作るためには」という視点で考えました。

その話を持ちかけてみたら、最初の川崎の事業所さんが一つ返事で「やりましょう!」と言ってくださって始まったのがこのプロジェクトです。ただ、そこは就労移行支援※だったのです。職人を育てていくこととちょっと相反する流れですよね。
(※就労移行支援:一般企業への就職を目指す障がいのある方を対象に、就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートをおこなう施設。)

PIPPO森井:就労移行ですから、制作を覚えてもらったころには、就職されていなくなってしまう可能性がありますよね。

みたけさん:最初、知らなかったのです。始めたら、制作を覚えてくださった方々がどんどん卒業していくことが分かりました。就労移行支援でやるよりも就労継続支援B型※でやった方が良いですねという話になり、B型の施設を探していく中でご紹介いただいたのが石巻のチームでした。
(※就労継続支援…一般企業への就職が不安、あるいは困難な方が、働く施設。A型とB型があり、雇用契約や月収などが異なる。)

PIPPO森井:商品化してデパートで販売するまでになるってすごいですね。

みたけさん:本当に、ありがたいです。

↓伊勢丹相模原店での販売の様子

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クラウドファンディングで資金集め

みたけさん:展示会に出る為の資金集めは、クラウドファンディングでやらせていただきました。

クラウドファンディングのページ:
障害のある方々と一緒に、継続雇用を目指すアクセサリー作りを!https://readyfor.jp/projects/chouchou104/announcements

PIPPO森井:期間はどれくらいですか?

みたけさん:8月末にスタートして10月末までです。その後、ACTIVE CREATERSという展示会に出展して。そこで、大手百貨店さまなどのバイヤーさん達と出会いました。

PIPPO森井:展示会ってお金がかかったり・・・かなり大変じゃないですか?

みたけさん:そんなに大きなブースではないですよ!

PIPPO森井:でも、作るまでが大変ではないですか?ブースをどういうデザインにしてとか、何を持ってきてとか、準備が大変ですよね。

みたけさん:確かに、それは大変でした。資金は91万でした。

PIPPO森井:そこまで、お金を集められるのもすごいなと思います。

みたけさん:ありがたいですね。本当に。感動しました。

もちろんお金を集める為にやっているのだけど、こんなに身近な人達が、沢山応援してくれるんだっていうのを体験できて、とっても勇気をいただきました。今でも、クラウドファンディングで支援してくださった方々のメッセージをサイトで読むことが出来ます。読むと勇気づけられます!

PIPPO森井:嬉しいですね!きっと商品のブランドコンセプトや、みたけさんのメッセージが皆さんに響いたからだと思います。

みたけさん:ありがとうございます!今、コメント数は72あるのですが、まとめてお金を私に預けてくださった方もいて、全部で100人くらいの方が、応援してくださったと思います。最初の1週間は泣いていました。「すご~い!!ありがとう!!」という気持ちで。大感激でしたね。

障がい者プロダクトの可能性は無限大

PIPPO森井:こういう経緯があって、このブランドが出来て、こういう人達が作っていて・・・という背景は、商品を買う人にとって価値になると私は思います。

みたけさん:百貨店さまなどで販売すると、お客さまはアクセサリーをかわいいと見てくださるんですけど、そこで話が終わる方も結構います。「障がいをもった方が作ったアクセサリーです」というのは、言わないと分からないので。

作品を魅力的に見せるパッケージ作りは、デザインの醍醐味です。百貨店さまの売り場に並んでいる姿をイメージしてパッケージを作りました。売り場全体をイメージして、設計する感じですね。

実は、最初は中身の見えない箱でした。でも、百貨店さまに並べることを考え始めたら、見えない箱だと中身が何だか分からないから買えないですし、サンプルを置いてもピンとこないなあ・・・と、考え直しました。

・・・私、本当に、福祉系のパッケージはテコ入れをする必要がある、と思っています。

PIPPO森井:すごいあると思います!

みたけさん:カメラマンさんを入れて商品の撮影もしっかりやります。モノさえ良ければ、必要なところにお金をかければ、一流の顔つきで、一流の売り場に出すことは可能です。イベントの時は、アンティークの小物などを専門業者さんから借りてきて、セッティングして。展示会ではお部屋で楽しんでもらえるようなを感じをイメージしました。

PIPPO森井:めちゃくちゃ大変でしたね!

みたけさん:でも、すごく楽しかったですよ!

いろいろ考えました。見ていただくにはどうしたら良いか?を。そこでつながった伊勢丹さま、小田急百貨店さま、東急ハンズ銀座店さまとイベントをさせていただきました。

見せ方を作ることは本当に大切です。障がい者プロダクトでも、見せ方を変えることで世界は広がる!と強く思います。

↓小田急百貨店新宿での販売の様子

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障がい者施設内の問題点

みたけさん:一緒にプロダクトを進めるにあたって、施設さん側にいろいろ依頼させていただくのですが、温度感が違っていて、思うようにいかないこともあります。

PIPPO森井:施設長がこうやりたいと思っていても、職員の方のが普段の仕事にいっぱいいっぱいでモチベーションが上がらない場合。逆に、現場の職員の方のやる気は強いけれど、上がうんと言わないからできない場合。いろいろな状況がありますよね。

一度、作業所さんのイベント出店のお手伝いをさせていただいたことがあるんです。私達は、その時だけ頑張れば良いのですが、職員さんは通常業務終了後にイベント準備をして、休みつぶして・・・という現実は大変だと思いました。

且つ、売り上げが上がらないとか、値段は安いってなってくると、気持ち的に・・・。

みたけさん:モチベーション上がらないですよね。いろいろ問題はあるのだと思います。

PIPPO森井:そうですね。課題は多いです。

みたけさん:でも、せっかくモノづくりをするのだから、職人として手を動かせるように育てていくなど事業所で体制を整えたら、絶対、良い物が出来ると思います。集中して作る力は、良い物を生み出します。

人によっては覚えるのが遅いかもしれないけれど、一度出来るようになったら、素晴らしいものが生み出されるのです。もっと社会が評価して良いことです。

↓制作の様子

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投資次第で、ブランドという無形資産が生み出される

PIPPO森井:百貨店で販売するような商品を作りたい!って思っている作業所さんも、もちろんいらっしゃいます。いろんなものに挑戦されてたりして。でも、日々の仕事がお忙しくて、ブランドコンセプトを育てるとか、パッケージに力やお金をかけるまでに至らないケースが多いなと感じています。

みたけさん:お金をかけるとどう変わるか、試してみたら良いですね。

PIPPO森井:そうですね。

みたけさん:例えばアミートブーケ本体だけだと、バザーで安く売られている物とあまり違いがないかもしれません。でも、ちゃんとパッケージをして、展示会に出して、世界観を見せてアピールした時に一流の百貨店さまと繋がれるというのは、みなさん知っていて良いことだと思います。

PIPPO森井:そういうお話を聞く機会があんまりないのかもしれません。

みたけさん:流通の乗せ方や、予算をとる価値が知られていないのでは?と感じます。私は最初から、展示会での出店を前提に作り始めています。予算をとって展示会に出る。そういうことをやったかやらないかでモノの売れ方が全然違うのなら、やった方が良いと思います。

もったいないですよね!普通に買いますよね、そういうアクセサリーを。それを、福祉作業所さんが作っいてますと言ったら、皆さん驚くのではないでしょうか。一般の市場で売れるということですから、モノが良いのであればパッケージをなんとかすればぐっと変わります。

お金を投じる事で、ブランドが出来ます。ブランドは、無形資産です。「資産」になるわけです。作る人を増やして、クオリティーをあげていけば、もっと良い物が出来てきて、その分、インカムが増えるわけです。

PIPPO森井:大きな設備や道具が無いと作れないものもありますが、そういった部分に投資されているところは、多いですね。

みたけさん:設備の購入費は助成金などおりることが多いです。そういう意味で、一般のビジネスより初期投資の段階でフォローが受けられますから、別の部分に投資できるはずです。本来は。

そうやって全体をとらえて考えていくと、ブランディングなどにお金投じるハードルは下がっていくと思います。

PIPPO森井:それは、知らない方、多いかも知れないです・・・!

みたけさん:ですよね!福祉業界の方でも、もっと一般ビジネスのモノ作りやお金のかけ方を知って、どうやったら市場にのれるのかということをどんどん考えた方が良いと思います。

どこに投資するかを整理して再考することは、きっと多くの事業所で出来ます。

↓制作指導の様子

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働く意義、働く楽しさ

みたけさん:バザーで売る物をどれだけ作っても、作っている人が「どうせバザーだ」と思っていたりすることがあるのを聞いています。

モノ作りって自尊心に影響すると思います。形になって目の前に現れるので評価がつきやすいからです。一般市場で売れるものを作れる自分の力を知ったとき、自尊心を感じる人も多いと思います。それに、一般に良いと言われているものと、同じ土俵で比較することもできるようになります。

そして、私は良いモノを作っている!と解って、それが一流の顔つきで売られているのを見たら、私はこんなにすごいモノを作っている人だ!と思える可能性もありますし、もっと気持ちよく、社会に対して劣等感もたずにやっていける人もいっぱいいるのではないでしょうか。

そういうのをやりたいから、私はブランディングを手伝うのだと思います。

PIPPO森井:なるほど!私は、鬱になったりして働いてない期間の方が長いんで、自分で賃金を得る事ってこんなにも自分の精神衛生上プラスになるだなって感じています。目に見えて「ありがとう」って言ってもらえたり、お金で返ってくるのは大切なんだなって、つくづく思いました。

みたけさん:障がいをもっている人も同じなのではないでしょうか。

PIPPO森井:そうですね。ただ、あまりに重労働すぎるとなかなか働けない方もいて、難しい場合もあるのかなと思います。

みたけさん:大丈夫な方は、働けた方がいい気がしています。自分のお金を自分で稼げる気持ちよさを感じてほしいです。

PIPPO森井:全然気持ちが違いますね!

みたけさん:障がい者が一律に出来ないと思われていることに違和感があるのです。「障がいをもっている人=健常者より出来ない人」という認識が一般にあるような気がして。

不得意は誰にでもありますよね。例えば、アクセサリーを作るにしても、健常者でも不得意な人はいます。その点に、作業所の職員さんも気がついて、意識や仕組みを変えていくと、もっと良いモノを作りやすくなると思います。プラスのサイクルを作れたら良いなと思っています。

PIPPO森井:それはあるかもしれません。こんなの売っても良いのかなって言ってる方もいらしゃるし、あんまりたくさん売る気はないっていう方も、ファンの拡大とかしなくても良いですって・・・今のままで良いですって方もいらっしゃいます。

みたけさん:やる気を止めると、残念ですがモノにも表れると思います。良いモノを作るために色々試してみることをオススメします!

↓制作の様子

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物作りの面白さ―――良い物は「物」を通して「想い」が届く


みたけさん:私が自社ブランドの天然石アクセサリーを作っている中で・・・心を込めて、ブレスレットのゴム通しをやった時、お客さんが涙ながらにその作品を受け取られたことがあったんです。その時、モノを作る背景がお客さまに届いてるんだと感じたことがあります。

支援者さんと作り手さん、両者が良いモノを作ろうとする「想い」は「モノ」にすごく響くと思います。

今の石巻チームが作ってくれているモノはどんどん良くなっているのです。石巻へ伺って、一緒の時間を過ごして、「それは出来ています!」や「良いです!」とお話したり、「ここはこういう風にして欲しいです」とお願いして、ぐんぐん予想を超えた良いモノが出来ています。

モノ作りに対する基本的な想いのある人達と出会えて本当に良かったです。大変ありがたいことです。

みたけさん、PIPPO森井:面白いですね!モノ作りって!

デザイナーは未来を一緒に創る人

PIPPO森井:ブランディングには具体的にどう着手すればよいと思いますか?

みたけさん:ブランドを創るというのは生半可なことではないので、最初にちゃんと想いを込めて、きちっとその「想い」を吸い上げてくれると思えるデザイナーさんと一緒に始める方が良いと思います。

デザイナーが何をやってくれるかご存知でない施設の方も多いかもしれませんね。

自分達では考えられないアイディアを持ち込んでくれたり、商品の良いところに目を付けてどうやったら世の中に出せるのかな?と一緒に考えてくれる人がデザイナーです。単に、表面をきれいにしてくれる人と思われていたら、残念です!

PIPPO森井:・・・一般的なイメージって、そうかもしれません。

みたけさん:デザイナーって「想い」の部分から一緒に共有して、「こういう風にやったら?」っていうのを、提案出来る人でもあるのです。

文章を書くコピーライターさんは、「想い」を言葉にして表現してくれる人ですよね。語彙も豊富だし、マーケティングの力もお持ちです。デザイナーは、そのビジュアル版です!もっと知ってもらえたら、きっと良いブランディングができますよ。

未来創りなんです!ブランディングは。どんな形で、どんな存在として世の中に認識されたいかっていうことを作っていくのがブランディングです。

PIPPO森井:ブランディングは未来を拓く一歩なんですね。デザイナーさん目線からのお話、とても勉強になりました。本日はありがとうございました!

インタビューを終えて

 みたけさんに出会うまで、私はデザイナーという職業の人に会ったことがありませんでした。「見た目をきれいにする人」というイメージしかありませんでした。しかし、企業や作り手の思いを吸い上げ、それを目に見える形にしていくことで、商品の良さをさらに引き出すことをされているとお聞きして「デザイン」の見方が変わりました。

 アートの分野で福祉がフューチャーされることも多くなってきた昨今、デザインの力で福祉の製品がどう変わるのか?今後がとても楽しみです!

<<アミートブーケの販売ページはこちらから!>>


↓みたけさんの絵画展にて

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Special Thanks:このインタビューページはボランティアの方々のご協力で制作されています。ご協力くださりありがとうございました。:akさん、ysさん

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