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『JUNK HEAD』が凄いぜ!という話

2021年3月26日、長編ストップモーションアニメ『JUNK HEAD』が公開されました。
私はにわかに話題になり始めたころのネットの反響を目にして知ったので、あぁそういう映画があるんだ、面白いみたいだな、という軽い気持ちで映画館へ足を運んだのですが、これがまぁとにかくアツい映画だったのです。

直接的なネタバレの無い範囲で感想を述べていきますので、気になった方もそうでもない方もぜひ観に行ってください。パンフレットも買いましょう。

公式サイトはこちら

ーあらすじと世界設定

遥か昔、人類は地下開発の労働力として人工生命体のマリガンを創造した
自我に目覚めたマリガンは自らのクローンを増やして人類に反乱
それから1600年後の世界
人類は地下世界で独自に進化するマリガンの生態調査を始めた
(※パンフレットより引用)

期間限定ですが冒頭10分間の映像が公開されているので、リンクからそちらもぜひご覧ください。

色々なところで喧伝されているのでご存知の方も多いと思いますが、本作はほとんどを1人で、7年間かけて作り上げた作品だと言われています。
厳密に人数だけを数えれば12人ほどが関わっていたとのことですが、平均では2,3人ほどの中核メンバーによって完成にこぎ着けたらしく、そのうちの誰も映像制作の経験が無かったというのが驚きです。

ところでストップモーションアニメというのは日本人としてはどの程度の馴染みがあるものなのでしょうか…。
私は同様のジャンルはニャッキ!ピングーで時が止まっていたのもあり、JUNK HEADを鑑賞した際は何もかも衝撃的だったんですよね。コマ撮りで2時間近い長尺のアニメなんて見たこと無かったですし。
想像していたよりもずっと滑らかに動き、特殊効果盛り盛りでド派手に魅せてくれるスクリーンに釘付けになってしまいました。

とはいえ時期としてはPUI PUI モルカーが放送されていたクールの封切りなので、体験するタイミングとしてはちょうど良かったのかもしれません。

話を戻しまして、このあらすじの時点で「1600年後」や「地下世界」といった単語が飛び出し、いきなりただならぬ作品であることを匂わせてきます。
実際、丸みを帯びたキャラクター造形やコマ撮りならではの可愛らしい動きとは真逆にグロテスクな描写もそれなりの頻度で差し込まれるので、苦手に感じる部分はあるかもしれません。

加えて本作には独自の言語が設定されており、登場人物の会話は基本的にくぐもったダミ声で表現されているのも不可解な雰囲気を後押ししています。もちろんこの不気味さとミニチュア的スケールとのギャップが本作の大きな魅力の1つなのですが。
ちなみにほとんどのキャラクターの声優は監督1人が手掛けており、その理由がプロの役者を雇う余裕が無かったからということもインタビューで語られていました。異例の制作体制ゆえかこういった裏話も非常に面白いので、興味のある方は調べてみるとより楽しめると思います。

以上の大まかなあらすじの通り、主人公のパートンは人類生存の可能性を探るため、かつて互いに争ったマリガンたちの住む未知の地下世界へ足を踏み入れることになります。
道標もなく、何が起こるかも分からない世界の冒険譚。
マリガンたちと出会うことで巻き起こる物語は想像以上に王道で、さながらロードムービーのような高揚感がありました。

ーキャラクターたち

本作には主に"人類"と人類によって作られた人工生命体”マリガン”、さらに地下世界を徘徊する異形の野生生物が登場します。

地下世界を舞台にしていることもあり主に登場するのはマリガンなのですが、この奇妙な生き物たちがまた多種多様な外見・性格をしていて、愛嬌があって癖になるんですよね。
個人的には序盤から出てくる”3バカ兄弟”や、迫力のある重厚なセットで表現されたバルブ村の住人たちがお気に入りです。

独自に進化した文化を築いていながら、人間に創造された生命という由来ゆえか、行動原理が非常に人間臭いところが面白いですね。

バルブ村は名前の通り地下世界を張り巡らされた配管内の圧力を調整するための集落ですが、職長のご機嫌を取ろうとゴマをする部下や、男衆を尻に敷く屈強な女衆の愉快な一幕が繰り広げられます。
当人たちはいたって真剣に役割を果たしているのに結果的に騒がしくなってしまう様には笑いが誘われますし、コメディチックに見えてどこか物悲しいようなやり取りには思わず共感してしまう部分もあるのではないでしょうか。

また本作を語るうえでは、地下世界に潜む野生生物の存在も欠かせません。大小さまざまな種類が現れますが、そのどれもがホラー映画に登場するような不気味なビジュアルをしており、彼らの凶暴性や食性もまた見る者の恐怖心を大いに煽ってきます。(※この怪物たちも、元を辿ればマリガンの一種のようです)

このようなモンスターは全容が明らかになってしまうと(造形の粗が目立ってしまうと)恐ろしさが半減してしまうものですが、静止画を連続再生するコマ撮りアニメの性質上、どうしても生じるぎこちない挙動が恐怖のレベルを担保してくれるのもプラスに働くポイントです。

未知の怪物に追われる者や立ち向かう者、あるいは争いとは無縁に課せられた役割を全うする者など、広大な地下世界を彩るキャラクターたちの生活模様は、たとえ物語の大筋に関係無くとも見ていたくなるほど興味をそそられました。
というよりも、たっぷり100分ほどの尺があってもその全てを描き切れない地下世界の広さたるや…。早く続編が観たいですね。

ーセットについて

JUNK HEADの地下世界は、性質としてはいわゆる工業施設の要素を持ったものとして作られています。
深度によって文化圏が異なるという話もあるので全てがそうではないかもしれませんが、作中に出てくる範囲では、天井を巡る配線やパイプ、打ち棄てられた鉄骨等からもかつての開発の名残が伺えます。

このセットがまた素晴らしく、いかにもな照明の当たり方だったり画面越しに伝わる砂埃っぽさには、有無を言わせぬ圧倒的なリアリティ・説得力がありました。
作中でキャラクターが手にする小物も含め、錆や煤、油汚れといった経年劣化の表現にも現実味があります。

舞台背景についてはもう実際に観てくださいとしか言えないのですが、スクリーンが大きければ大きいほど惹き込まれると思うので、行ける範囲で最も大きい映画館に足を運ばれることをお勧めします。

またこの背景・造形物については、パンフレットに20ページ超の大ボリュームで紹介されています。パンフレット自体が50ページもある充実の内容のため、JUNK HEADの世界観に浸かりたい方はぜひお買い求めください。

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※なお、解説において本編ストーリーのネタバレがありますので、映画鑑賞後に読まれることを推奨いたします。


ー終わりに

JUNK HEAD膨大な世界設定を持ちながら、その全てを語られることはありませんでした。
というのも本作は3部作の第1作だからとのことで、今後もJUNKな世界は続く(予定)らしいのです。

たった1人の情熱から始まったこの作品、少しでも創作の経験があるならより一層深く刺さるんじゃないかなと思います。
もちろん私がつらつら述べた感想以上に魅力溢れる作品なので、ストップモーションアニメやSFというジャンルに馴染みが無い方もそうでない方も、鑑賞するきっかけとなれば幸いです。

まだまだ全国各地で上映しておりますので、諸々気を付けながら楽しみましょう。

JUNK HEAD上映館一覧はこちら


ーその他映画紹介

ここからはその他に鑑賞した映画の紹介をさせていただきます。

公式サイトはこちら

ノマドランド
第93回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞を受賞した話題作。
21世紀の遊牧民=ノマドたちに焦点を当てた、リアルとフィクションの境界が溶け合うロードムービーです。
主人公ともう1人を除く登場人物はすべて一般人(実際に車上生活をしているノマド)を起用していながら、素人だと感じさせないほど表出した人間味に目を離すことができませんでした。
ノマドの人々が語るリアルが、カメラやスクリーンというフィクションのフィルターを通して映画の枠を超えた感動がありました。

正直に言って私はこの作品をしっかりとおススメできるだけの語彙力を持ち合わせていません。
ただ実際にそこにいる人たちの生活が、現実味のある生活の質感と、現在そして将来の不安から来る浮遊感を混ぜこぜにした波となって襲い来る。
そんな作品でした。

かみ砕いて飲み込んだつもりでもこうしてアウトプットすることが難しいのですが、やはりこういった作品は実際に体験してみるほかに無いとも思うのです。

撮影風景を記録した特別映像が公開されておりますので、参考までに1度ご覧ください。
https://youtu.be/vEmREnr44qQ


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るろうに剣心 最終章 The Final
言わずと知れた名作漫画の実写映画シリーズ第4弾にして最終章第1作。
明治時代を舞台に、かつての幕末に人斬りとして名を馳せた主人公"緋村剣心"の活躍と葛藤が描かれます。

緋村剣心を演じる佐藤健さんはもちろん、今回が初登場となる敵役"雪代縁"を演じる新田真剣佑さんの鬼気迫る熱演が本当に素晴らしく、完全に仕上がった肉体から繰り出される高速の戦闘描写は必見です。
ストーリーの展開上どうしてもエンターテインメントとしての爽快感は前作を超えられない部分がありますが、映画の尺に収めるにあたり見事に再構築されており、終盤の映画オリジナルの展開には思わず歓声を上げてしまいそうになるほど感動しました。

アクションシーンの練習風景が公開されていますので、こちらもぜひご覧ください。
https://youtu.be/GVouT3FBYGs


5月は個人的に2021年の期待値No.1映画であるゴジラvsコングを楽しみにしていましたが、昨今の諸々で延期となってしまいました。
もう本当に勘弁してくれって感じですが、とにかく映画は本当に素晴らしいのでこれからも劇場に観に行こうと思います。

面白い作品があればご教示ください。

よろしくお願いします。

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