民主主義と資本主義は両立するのか?

エコノミスト 2019年6月15日号
Free exchange: Votes for confidence

<記事内容紹介>
近年の政治経済学者は、英米社会で貧富の差が広がっているのは民主主義の根幹を揺るがす事態だと主張している。このテーマを扱ったフランスの経済学者トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』は大ベストセラーになった。このような議論は、カール・マルクスやフリードリヒ・ハイエクに始まる思想家による古い考えに行きつくもので、つまり、民主主義と資本主義は両立しないことの証明だというわけだ。

しかし、過去1世紀ほどの歴史は、違うことを物語っている。先進的な資本主義的民主主義国が、独裁主義国家に逆戻りした例はない。このことについては、ハーバード大学のトーベン・イヴェルセンと、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのデヴィッド・ソスキスが、最近の著書『民主主義と繁栄』の中で述べている。さらに、民主主義と資本主義は相互に補強し合うものだとも書かれている。

だが、経済学者や政治理論学者は、資本主義的民主主義が失敗に終わるあらゆる可能性を想定してきた。オーストリア出身の自由主義的経済学者ハイエクは、不況を心配する民衆の声に従って政治が過度に経済に介入したことで国が全体主義へ向かったと考え、マルクスに続く思想家たちは、資本家の強欲が国家や民衆に多大な被害をもたらすと考えた。企業の革新が経済発展を促すという概念の始祖である、高名な経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、そうやって企業が力を持つようになった結果、独占化して政治家と利益を分け合うようになることを恐れた。ピケティその他の経済学者は、資本主義国では自然に経済格差が生じると言っている。ダニ・ロドリックなどの他の経済学者たちは、国際経済に完全に参入するなら、国は自治権や民主主義をある程度諦めなければならないとさえ言っている。

それにしても、資本主義と民主主義がそんなにも相容れないものだとしたら、この2つが富裕国で長年共存しているのはどういうことだろうか。イヴェルセンとソスキスは、資本主義と民主主義は3本の柱で互いに支え合っているのだという。1本目は、大企業や強い労働組合の力を抑え、市場競争が確実に行われるようにする強力な政府、2本目は、経済社会のメリットを享受して政権を支持する、中産階級の人口が多いことだ。

2本目の柱である中産階級の繁栄を支える、教育やインフラや社会福祉制度を提供するには潤沢な税収が必要になる。そこで3本目の柱が必要になる。それは、海外へ流出することのない、安定した大企業だ。多国籍企業は生産拠点と収益を世界中に広げるのが得意だが、ITを主体とする知識経済においては、ロンドンや、ニューヨークや、シリコンバレーといったスキルある人材ネットワークとのつながりを切るわけにはいかない。そのような企業が集まる国は力を持つようになり、潤沢な税収を得て消費を促す社会が実現するのだ。

このように3本の柱でしっかり支えられれば、資本主義的民主主義は安泰のように思える。しかしこれでは、民主主義は中産階級次第だ。近年、アメリカやイギリスでは中間層の収入の伸びが急激に落ち込んでおり、有権者は投票に行かなくなり、その結果、極右や極左などのラジカルな勢力が力をつけつつある。政府もまた、中産階級を大事にすることに重きを置かなくなっている。

格差がじわじわと資本主義的民主主義をむしばんでいっていることを、われわれは過小評価していたかもしれない。民主主義は死なず、という考えは、必ずしも正しくないのかもしれない。

<comment>
日本に生まれて日本で暮らしていると、資本主義と民主主義は当たり前に両立するものだと、思い込んでしまってたりしませんか? でも、ちょいと今のお隣中国を見ると、共産主義的資本主義がどどーんと成立して、しかも、ものすごい勢いで経済成長してきたわけですよね。もしかして資本主義って、共産主義との方が相性よかった? と思えなくもないです。だって例えば、中国の三峡ダムというどでかいダムの開発にしたって、民主主義でなければ大衆の声なんてきく必要ないわけですから、否応なく住民が立ち退かされてて、そういう場面を見ると、そりゃ開発速いわ! と思ってしまったりします。

ピケティの『21世紀の資本』は、日本でもベストセラーになりましたよね。資本主義社会では、必然的に経済格差が開くということを実証してみせた本、のようですね(←読んでないです、スミマセン)。貧富の差があまりにも開けば、貧しい人たちが怒って革命が起きたり社会不安になるということは、もうフランス革命の時代から当然なわけで(もっと前からあるか笑)、そうならないためには、なるべく多くの人たちが経済的に満足できるように、中産階級を育てて大事にしていくことですよね。もちろんそれでも一定数の貧困層は残ってしまうと思いますが、そういう人たちは税金や福祉といった形でみんなで助けていこう、社会の安定と安全のために。というのが、健全なんじゃないかと思います。

今の日本も、いまや非正規雇用が40%を超えて、中産階層が崩れつつあります。いやもう崩れたか。そしてみんなが選挙に行かなくて投票率が低くて、これでは、独裁政権が生まれそうな予感です。いやもう生まれてるか。
そして、貧しい人たちをみんなで助けて行こう、ではなくて、みんな、貧しい人は自己責任といっていますね。こんな日本に、明るい未来はあるのでしょうか? まあ知らないけど、みんな、選挙だけはしっかり行きましょうね。オーストラリアでは、選挙は義務で、行かないと罰金とられるそうです。民主主義を守るためには、本来そうすべきなのかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?