イギリス労働党は復活できるか?
「労働者階級の英雄にならなくてどうする」とジョン・レノンは歌った。
"A working-class hero is something to be,” sang John Lennon."
(英エコノミスト 2020年2月15日号 "Bagehot: The perils of Lennonism" より。以下引用同じ)
労働者階級の悲哀を歌ったジョン・レノンの「労働者階級の英雄」ですが、この部分の歌詞にはさまざまな解釈と翻訳があります。ネイティブに聞いたら「something to be」は「社会に必要な、なるべきもの」というニュアンスだということなので、上記のように訳してみました。
去年のイギリス総選挙で大敗を喫したイギリス労働党。ジョン・レノンの歌の歌詞よろしく労働者のための英雄であることを標榜している労働党は、いつか再び権力の座に返り咲くことができるのでしょうか?
しかし労働者の味方といっても、その労働者自体が時代と共に変容しつつあり、工場などで働く労働者階級の数はぐっと少なくなってきています。
「YouGov社(英国の国際的な市場調査及びデータ分析会社)の前社長で世論調査専門家のピーター・ケルナーによれば、今日ではその割合は43%だ。」
"Today the figure is 43%, according to Peter Kellner, former president of YouGov, a pollster."
記事によれば、1987年は労働者階級が62%だったとのこと。いまや労働者階級は国民の過半数を割ってしまったんですから、労働党の支持基盤が弱くなっていくのも当然です。しかも労働党の党員たちももう労働者階級ではなく、記事によれば80%が中産階級出身とのこと。
「また、レノニズムのせいで労働党は、古い灰の中から新たな形の階級闘争が出現したことが見えなくなっている。」
"Lennonism is also blinding the party to the emergence of a new form of class struggle from the ashes of the old."
ジョン・レノンの歌を単純に労働者階級賛歌ととらえて、労働者階級礼賛を「レノニズム」と呼ぶことには異論を唱えたくなります。ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ USA」を単純にアメリカ賛歌と誤解している人が多いのと同じかな……それはさておき、
エコノミストの記事によれば、昔の労働者階級の定義は、自分で生産手段を持っているかいないかで決まりました。生産手段を持っていなければ、資本家に雇われる側になって工場などで働く、というわけですね。でも今は社会階級は学歴で決まりますし、職業が多様化してどの職業が労働者階級と明確に線引きできなくなった今、人々は自分の階級を職業よりも、アイデンティティや価値観でとらえるようになっているということです。
そのような中で、学位学歴や特別な資格などを持つ者と、持たない者との衝突が世界中で、政治の世界で形になって表れつつあるという分析もあります。
「このことはまさに英国に当てはまり、学位持ちのエリートに強く支持される政策(グローバル化、自由市場、社会自由主義)をせっせと採用した結果、ブレグジット(イギリスのEU離脱)という形の大きな反動勢力を呼び起こすことになってしまった。」
"This is particularly true of Britain, which enthusiastically embraced policies favoured strongly by the credentialled elites (globalisation, free markets, social liberalism), only to summon up a mighty backlash in the form of Brexit."
労働党は、いつまでも古い階級闘争にこだわっていては多数派の支持を得ることはできないだろう、という記事でした。これ、日本の共産党にもいえることのような。
ボリス・ジョンソン首相率いる今のイギリスの政権は、ポピュリズムがすぎてなにかと問題ありますから、こんなときは野党に頑張ってもらわないと困るのですが、労働党がいつまでも古い考えから抜け出せないようだと見通しは暗いですね。EU辞めちゃったイギリスの前途は多難です。
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