サウナな人々 夜の酔いどれたち
今日のサウナは静かだ。人は丁度いいくらいいるのだが、話している人はおらず、皆がひたすらに熱を感じているようだ。
特徴のないインストゥルメンタルが、静かに汗とともに流れている。
昨日行ったサウナは、ボスと常連のおばちゃんずが大いに騒いでおり、ここはどこぞの居酒屋かと思うほどだった。
話す内容も酔っ払いの如くで、箸が転がってもおかしい年頃を半世紀以上過ぎた女子たちが、とにかく何を話しても笑うのだ。
「夏は水風呂が冷えないのよ。この前吉村さんが水風呂で、入っていた人の体温を感じたって言うのよ。人の体温で、水風呂が冷えないと言い張ってきて」
取り巻きの一人が会話を始める。
「え、それどう言うこと?」
「隣に入っていた人が水風呂から出たので、その人がいた場所に移動したら、その人の体温をその場所の水で感じたって言うのよ。」
「水が体温であったかくなったってこと?そんな訳ないわよね〜。その部分の水が人の体温で温まるなんて聞いたことないし」
「私も吉村さんにそう言ったんだけど、全然話聞かないの!あの人、絶対意見曲げないんだもん。」
「吉村さん、らしいー!そういう人だよね。あったかったのは、コロモだよ、コロモー」
ぎゃっはっはー
吉村さん…。熱いサウナ内で大声で話し、大笑いできるのすごいな。
何度かサウナ、水風呂を繰り返していると、サウナ内の騒ぎはだんだん大きくなる。サウナと水風呂でキマり、仲良し同士で話すことでテンションが爆上げしているのだろう。酩酊状態だ。
そんな中、すべらない話の松ちゃんの如く、重々しくぼそぼそとボスが話し出す。
「家で旦那に隠れて酒を飲んでるんだけどさ、最近バレて罵倒されたんだよね。この前も殴られそうになって」
いきなりのシリアス展開に私に緊張が走る。おばちゃんずは、微妙な笑いを顔に残したまま、次の言葉を待っていた。
「何でもアルコールは750mlくらい入れば上機嫌になるから、そんなに飲んでるわけじゃないんだけど、女が酒なんか飲むなって、夜中に大声で怒鳴ってくるから、困る」
「旦那が帰ってくる前に飲んだ缶とか瓶を捨てればいいんじゃない」
シリアス展開に切り込む配下の一番槍。
「そうなんだけど、酔っ払うといい気分になって忘れるんだよね、捨てるの」
「うちは、もうお互い興味ないっていうか、自分は自分だからそういうの無いなー」
自己を晒し、場の空気の濃さを薄めようとする猛者。
「自分だって会社の部下連れて、週3は飲みに行ってるんだよ。私は何でダメなの。私だって息抜きが必要だって理解してくれない」
悲痛なボス。サウナで配下の兵たちと楽しそうにしているのを平日夜に結構な確率で拝見するが、と心で突っ込む不遜な平民の私。
「難しいね。旦那ってそんな感じじゃん。治らないよ」
ボスの逆立った毛を優しく撫でる医療班。
「でもさぁ…」
正座でうなだれている(イメージの)ボス、顔をあげながら、
「旦那に隠れて飲むスパークリングワインは、
五臓八腑に染み渡るんだよねー」
ぎゃっはっはーーー
今日一番の爆笑、MVSだろう。シリアス展開からの臓器増加への急展開。ボスは伊達じゃない。
昨夜そんなサウナを体験したからか、反動で静寂を求めて今夜はこちらのサウナに来たわけだが、ここが静かな理由が分かった。
水風呂がないため、キマらないのだ。
よってガラコ村の巨人たちのような、壁の中の酔いどれたちも現れず、静かな空間が保たれているのだ。
喧騒か静寂か、酔いどれかシラフか、水風呂が支配する世界でもキマってもキマらなくてもいい。いつでも素敵なサウナの時間。
いつも有難うございます!