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まだ見ぬ君と乾杯したい!

「うちの部署は、お酒が強くないといけないのよ」

書くと、一種のアルハラのように聞こえるが、これは残念ながら事実だった。別に、お酒の強さで配属先が決まっていたわけではないから、「お酒が強くないとつらい」という意味合いだったし、実際2杯目からカルピスを飲む私の上司は辛そうだった。私のような一般事務にとっては関係のない話ではあるが、接待に駆り出される男性社員にとっては、切実な問題だったろう。

なんでかというと、私の所属していた部署は国際的な交流のある部署だったからだ。中国、ベトナム、韓国、ヨーロッパ、もちろん個人差はあれど、お偉方は総じて酒が強かった。そしてお酒の席が好きだった。


乾杯、の様子は各国様々だ。

お隣韓国では、目上の人から顔を背けて飲むのがマナーらしいし、ベトナムに至ってはずっと乾杯してる。「モッ ハイ バー ヨー」って掛け声をかけてお酒を飲む。目が合ったら飲む。ポケモンで目が合ったらバトルけしかけられるみたいに。中国の乾杯は飲み干すことがマナーらしい。

私は海外で接待することなんてなかったが、たまに、大きな宴会が催されることがあった。海外から会議のためにいらした方々と、私の所属していた部署の人間との交流会のようなものだ。私は、そこでいろんな人と会って、いろんな乾杯を見ていた。ベトナムとか、韓国とか、あとタイとか、いろいろ。だから乾杯のお作法もちょっとだけ知ってるし、知らないところは知らない。ただみんな楽しそうだな、と思ってみていた。私はお酒があまり強くはなかったけど、乾杯を勧められたら受けていた。英語があまり達者じゃない私でも、コミュニケーションが取れた。なんとなく「私はあなたのことを好ましく思っています」と、そう伝えられた気がした。


母親が韓国ドラマの中で、乾杯のシーンがあった。「今は小さな飲食店だけど、これから大きくしていこう、俺たちならできる」、そういって仲間で乾杯をする。乾杯を通じて思いを伝えあっている。円を描いている人たちの、見えない何かがつながっているような、不思議な感じがした。


不思議な文化だ。

乾杯、の時にはいろんな思いがその場にある。

ねぎらい、感謝、決起、団結、喜び、などなど。どれもプラスのエネルギーで、マイナスなものはない。

なんだか楽しいし、なんだかほっとする。お酒が飲めない人にとってはつらいかもしれないし、実際私も、月曜日の飲み会とかは内心勘弁してくれよ、と思っていた。思っていたけど、乾杯は好きだ。だってみんな楽しそうだし。なんか楽しいし。

今までいろんな乾杯をしてきた。20歳から数えてまだ6年しかたってない初心者だけど、サークルの打ち上げで、会社の歓迎会で、友達とふたりだけで飲んだ小さい居酒屋で、別れた彼氏とのぎこちない個室で、送別会で、セブ島の汚いコンビニ前で。

大きなお祝い、小さなねぎらい、初めまして、さようなら。

その全部に、いろんな気持ちがあった。ほっとしたり、うれしかったり、緊張したり、送別会の時は、少しだけしんみりしたかもしれない。そしてそれは、多分、その場の人たちも。

杯を交わしてお酒を飲む。
こんなに簡単だけど、なんだか少しだけ、相手のことが分かった気がする。

日本で、韓国で、ベトナムで、中国で、世界各地で杯が交わされる。

また乾杯したい。いろんな世界の、いろんな人たちと、いろんな気持ちで。


#また乾杯しよう

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