見出し画像

自転車でカナダ~アラスカを旅した話#69 ワークエクスチェンジ

2018/8/3

午前七時半、グレッグに起こされた。
もう少し寝たいところだったけどちょうどいい時間かもしれない。そう思って起きてトルティーヤをかじっていたら、グレッグがコーヒーを持ってきてくれた。

「なあユーサク、時間があるならワークエクスチェンジしないか?」

そういえば外の看板にもそんなことが書いてあったけど、なんだそれ?と思っていた。
尋ねてみると、どうやら一日グレッグの作業を手伝えばその日の飯と宿泊が無料になるらしい。まあこの先四日分の食料はあるし、釣りもできるし、こういう場所で生活している人の生活を垣間見ることができるのはちょっと面白そうだなと思った。

「オーケー。じゃあ今日一日だけやってみるよ」

こうしてワークエクスチェンジの一日が始まったのだけど、準備ができるまで釣りでもしてきなと言われたのでその通りにする。

昨日はパイクがいることを知らなかったので使っていなかったけど、今日はワイヤーリーダーも結束する。
日本ではタチウオの釣りくらいでしか使ったことがないワイヤーリーダー、タチウオ同様鋭い歯を持っているパイクの釣りではこれがないとラインが切られてしまうという。昨日10ポンドのラインでウィードの中から引きずり出せたのは本当にラッキーだった。
そんなわけで、今日は臆せずガンガンウィードを攻めていこうと思う。と、思って投げた三投目だった。

もそっとした鈍いアタリがあったので合わせてみると、竿に少し重みが乗った。エギングでのイカ釣りみたいな、ゴミが引っかかっただけのような感触だった。
ところが、しばらく引いてくると突然猛烈なパワーで走り始めた。
慌ててベイトフィネスリールのドラグをフルロック、それでもラインが出てしまうので初めて指でスプールを抑えてコントロールした。

でけぇ、、、

時間をかけて弱らせてから岸にずり上げると、やっぱり変な魚が横たわっていた。

まんまる
なかなか愛嬌がある

「よくやった!」

そう言ってきたグレッグとハイタッチして、写真を撮ってもらった。

トラウト用のネットには納まりきらない

この魚が後にも先にも、この旅で釣った魚の中で最大だった。
手尺で73cm。立派なノーザンパイクだ。

顔が引きつる
ワイヤーリーダーはコーティングがズタボロに

その後半身はグレッグに捌いてもらいながらやり方を教えてもらって、残りの半身は自分で処理した。
昨日は雑だなぁと思いながら見ていたけど、実際やってみると小骨が多くてなかなか大変だった。捌いてる最中の写真は結構グロいので割愛します。魚を捌いているというより、動物を解体しているような気分だった。

それから少し彼の仕事を手伝った。
と言っても重い棚や洗濯機を運ぶ程度の作業だった。

本当は木を切り倒したりするつもりらしかったけど、今日は風が強いからということで断念した。
どうやら山火事は広がっているらしく、この辺りも朝から煙っぽい感じだった。この先のJade Cityは酷い煙で外にも出れないような状態だという。

「今日はここにステイして正解だったよ」

そう言うグレッグだったが、結局山火事の影響で通信の状態が良くないとかでワイフィーも使わせてもらえず、仕事という仕事もなくて暇を持て余してしまった。

巨大なスイカを貰ったのでアレルギーあるのも忘れて食べまくった。
本読みながらくつろいでいたら、グレッグからJade Cityに行くけど一緒に行くか?と誘われた。
まあ暇だし、煙の状況も気になるし、何よりも煙草が買えるかもしれないと思って付いていくことにした。暇だと煙草が減るのだ。

愛犬ポパイと共に行く
到着

トラックで時速100kmも出せば10分程でJade Cityに到着する。
自転車だとなかなか大変な道程だ。

シティー?
翡翠
その他宝石

その昔Jade=翡翠の産地として栄えたというJade City。
翡翠以外にもアメジストとかクリスタルとか、何やらピカピカしたものやそれらを加工したものが展示・販売されていたけど、僕の目にそれは釣具にしか見えなかった。

スピナー各種
こちらはスプーン
高っ

そんなこんなで煙草は買えなかった。

グレッグの用が済んだので街を出ると、今度は卵を買いに行ったり友人の家に寄ったりして待たされた。
家に戻って作業を再開したのは午後二時頃。

木を運ぶ
枝を投げる

グレッグが切り刻んだ木を所定の位置へ運んだり、枝を崖から下へ投げたりして終わった。運動量としては余裕だ。
暇になったらまた釣りでもしてこいと言われたのでその通りにする。

また釣る
今度は自分で捌く

「いいぞユーサク!もっと釣ってこい!」

昼飯に焼きそばのようなものを食わしてもらって、また釣りに行く。
これはもはや仕事なのかもしれない。

試しにスピニングタックルで
また釣る

お客さんだか友人だかと話しているグレッグを横目に、魚を捌いてラッピングして冷蔵庫に入れる。血の匂いと魚の匂いで少し酔った。
その後彼が商品として売っているというサーモンの瓶詰め作業を手伝う。

保存の目的もあるのか塩分たっぷり
ていうかその腹は何だ

贅沢な一日ではあったけど、それにしてもなんかいいように使われてるだけのような気がしてなんだか腑に落ちなかった。
何故だかお湯が出なくなったから川で水浴びしてこいとか、Wi-Fiは高いからあまり使うなとか、俺が使うから後でやってくれとか注文が多い。まあこの不憫さと自由さこそがこの土地で暮らすということの本質なのだということが今ではわかる。わかるけど、やっぱり納得いかなかった。

テントに入って本を読んでいたら、午後九時頃になって「ディナータイムだよー」と呼ばれた。
そこには今日自分が釣ったばかりのパイクが唐揚げにされていたのである。

パイクご飯

悔しいけれど、これがサクサクで柔らかくてジューシーで、めちゃくちゃ美味かった。
わざわざライスを炊いてくれたあたり、日本人である自分のことを思ってくれたのかもしれない。しかし納得いかないのはその量だ。三尾も釣ってきたというのに、明らかにそれは一尾分のパイクなのだった。
自分で釣った魚は自分で処理して無駄なく全部美味しくいただく、というのが自分の魚釣りの理念なのだけど、後の二尾がグレッグの腹の肉になるのかと思うとやりきれない思いだった。それは絶対に無駄な肉なのだ。

テントに戻ってこの先のことを考えていた。
ユーコン準州に入ってホワイトホースまでは行こうと思っている。あわよくばユーコン川をカヌーで下りたいとも思っている。フェリーでバンクーバー島へ行ってサーモンを釣ってみたいとも思っている。デナリ国立公園まで行ってみたいとも思っている。
憧れのノーザンパイクを期せずして釣ってしまった今、どこに次の照準を絞ったらいいのかよくわからなくなってしまっていた。


とりあえず北へ行く。

どうやら僕の旅は最初から一貫してそのことに終始していた。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?