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ワンチャン狙いのチャラ貴族にエスプリの効いた女のカウンター(周防内侍)

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春の夜の夢ばかりなる手枕に
かひなく立たむ名こそ惜しけれ

周防内侍 『百人一首』六十七番/『定家八代抄』九百五十四番

あなたの腕枕はとても魅力的だけれど、うっかりお誘いには乗らないわ。
春の夜の夢のように儚く消えてしまう一夜の恋に、つまらない噂が立っても、ね。(はいはい、出直してきてね)

**春、夜、夢。

美しい言葉が並びますが、これは、男女の機知に富んだ、色っぽい冗談の応酬の歌です。**

二条院で夜更けに殿上人や女房が楽しく語らっていたときのこと。
「眠いわ、枕が欲しい…」とつぶやいた周防内侍(作者)。それを耳にした時の大納言、藤原忠家の、「どうぞこれを枕に」と御簾から腕を差し入れた戯れに対し、返したのがこの歌。

怒ったり、笑ってごまかして終わることなく、相手のプライドを傷つけず、美しい調べでエスプリをきかせて返す機知に、「こりゃいい女だなぁ」って本気になった貴公子はいるんじゃないかな〜と、思います。
リズムよく並べられた美しい言葉から、さっくりオチをつける感じがいい。かっこいい。いい女だ。

また、中世の貴族社会の、「うまいことをオシャレに言う」のがもてはやされる文化をほのかに感じとることができるのも、この歌が大好きな理由のひとつです。

ちなみに、腕(かひな)、甲斐なく(かひなく)、と、掛詞を使い、技巧的にも素晴らしい歌です。

ふた晩目には、あなたの腕はもうないでしょうし、変な噂が立つだけで終わっしまったら、寝た甲斐もないし、ね。
見事なダブルミーニングですね。

周防内侍

「女房三十六歌仙」の一人。やはり歌人として名高かったようです。父が「和歌六人党」の平棟仲ということで、歌人DNAですね。
後冷泉天皇、後三条天皇、白河天皇、堀河天皇と、四朝に仕え、出家した後、七十数歳まで長生きした女性でした。
残っている主なエピソードとしては、上記の「春の夜の…」の他に、人手に渡る家に歌を書きつけた柱が、西行も訪れるくらい名所化したとか。

住わひて我さへ軒の忍ふ草
しのふかたかたしけきやとかな

軒先に忍草が茂るほど古びた家からとうとう立退くことになりました。振り返ると様々な思い出が偲ばれます。

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