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神話物語 | 霧の女①



(1) 霧の女


 その終わりが近づきつつあった。

 あの夏の日、ひとつのうわさが広がりはじめた。
 
「たしかに見た。霧の中に。青いワンピースを着て歩くひとりの女を…」

「ぼくも見たよ。霧の中を、風のように歩いていた。自信に満ちあふれたような、悲しみに包まれているような…」

「そうだな。なんて形容していいのかわからないが、君の言ったとおりだ」


 顔も頭も足もたしかにあった。見えていないのに見えているような。一歩歩くごとに、オーラの色が変わっていった。ただ「美しい」としか言えなかった。

歩くたび
虚空にバラが
揺らめいた。
星を浮かべて
きらめきながら。

青く輝き
黄色を放ち
くっきりと
もやもやと
霧の中を
切り裂きながら
消えながら
また現れながら。

しだいにすべてを
あわい青で包みながら。

女が通り過ぎたときには
辺りはみんな
青一色になっていた。


(2) 霧の女伝説


「霧の女って聞いたことある?」

「話は聞いたことがあります。実際に見たことはありませんが…」

 至るところで、同じような会話が繰り返された。


 霧の女は、見える人には見えるが、見えない人にはまったく見えないようだ。目撃者の話を聞く限り、多少の表現こそ違うが、目撃者同士が語り合うと、完全に意見が一致する。それゆえに、未だに霧の女を見たことがない者でも、霧の女の存在を信じた。

 霧の女を複数回見た者はいない。同じ場所に二度現れたこともなかった。まさに神出鬼没だった。

 当然のことながら、もしかしたら、本当は見ていないのに、霧の女を見たと言い張る人がいるのではないか?、という疑問を持つ者はいた。

 しかし、霧の女の目撃者が増えて、目撃者同士が話し合うと、話には寸分の齟齬もなかった。だから、見たことがない者も含めて、霧の女の話をみんな信じるようになった。架空の話だと思う者は、ほとんど存在しなくなっていった。


…つづく


第2話はこちら(↓)



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