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教育コンテンツを提供~大阪大学国際医工情報センター長、貴島晴彦さん

 フォトニクス生命工学研究開発拠点にはさまざまな組織が参画しています。今年5月に加わった大阪大学国際医工情報センターもその一つ。国際医工情報センターは拠点でどのような役割を担うのでしょうか。貴島晴彦(きしま・はるひこ)センター長は大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学の教授を兼任しています。話をうかがいに、教授室を訪ねました。(フリーライター:根本毅)

 フォトニクス生命工学研究開発拠点は、さまざまな生体情報を計測、数値(デジタル)化し、活用することで社会を支えるフォトニクス技術の開発と社会実装を目的に生まれました。大阪大学と連携しながら、大阪大学 大学院工学研究科・フォトニクスセンター、産業技術総合研究所生命工学領域フォトバイオオープンイノベーションラボ、シスメックス株式会社などの企業と一緒に研究を行っています。

 フォトニクス生命工学研究開発拠点のWEBサイトはこちら

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──貴島教授は、国際医工情報センターのセンター長という立場で拠点に参加されています。センターについて教えてください。
 センターは設立して20年近くたちます。医学と工学、情報科学を結びつけて新しい学問領域をつくろうという目的で作られたのですが、教育に力を入れています。医療機器開発のスペシャリストを養成するメディカルデバイスデザインコースや、再生医療コースなどがあって、人材育成をしています。

──フォトニクス生命工学研究開発拠点では、どのような役割を担うのですか?
 教育コンテンツを提供するということが一つ。さらに、医学部のニーズと、拠点で出てくるシーズ、あるいは医学部のシーズを結びつけるために研究者を紹介したり、プレゼンしてもらったり。医学部のニーズやシーズに対して、フォトニクスがどういうことができるか、話し合いながら新しいものを作っていこうということが一つです。

──教育コンテンツについてもう少し教えてください。
 社会人教育が多いですね。今はウェブで講義をしています。例えば再生医療では、細胞を大量に生産する場合に特殊な技術が必要になります。土曜日の丸1日、計5日間の講義で製造プロセスの設計を学んでもらうコースがあります。
 メディカルデバイスデザインコースでしたら、土曜日の午前、午後にかけて半年ぐらいずっといろんな先生が講義をするコースがあります。今はウェブで講義をしています。

──拠点でも教育コンテンツを?
 拠点でも人材育成が必要です。最近は、このような大型のプロジェクトをしようとすると、人材育成のアウトプットも求められます。我々には教育コンテンツのノウハウがあり、利用が可能です。
 例えば、工学部の人に医学的なことを学んでもらう必要が生じるでしょうし、拠点の考え方やビジョン、技術を社会実装するための知識も学んでもらわないといけないんだろうと思います。フォトニクスとはどういうことかとか、どういうことができるか分かってもらうこともあるでしょう。どのようなコンテンツにするかは、これから考えないといけません。
 プロジェクトが走り出すと、人材育成はされます。しかし、この拠点のように大きなプロジェクトでは、結果的に人材育成がなされるのではなく、教育という一部門をちゃんとしないとダメだと思うんですね。

──貴島教授の専門の脳神経外科は?
 我々のニーズも出します。いろんな外科や皮膚科、眼科などの先生や、基礎研究の先生がフォトニクスの研究者と集まり、何ができるかディスカッションもしていきます。医学部のシーズとフォトニクスのシーズを融合させて、社会を変えるものを一緒に作ろう、ということですね。

──社会を変えるものというと、どんなイメージですか?
 医学のニーズとしては、認知症やがん、免疫系の炎症などがありますね。もっと広い範囲だと、自律神経から心を読み取るとか、目がよく見えるようになるとか、新型コロナウイルスが見えるようになるとか。今の診断や治療とまったく違うレベルを考えたらいいんじゃないですか? ビジョンデザインワークショップではいろんな意見が出ていました。いろんなセンサーがあって、健康、健康と気にしなくても普通に生活していたら自由に生きられるというような。医学系とちょっと違う意見もありましたが、寄せていけるのかなとも思いました。

──8~9月に3回にわたり開かれた「ビジョンデザインワークショップ」ですね。参加者みんなで、拠点が目指す「実現したい社会像(ビジョン)」のブラッシュアップを図りました。参加して、いかがでしたか?
 いろんな意見が聞けてよかったです。いろんな人がいろんなことを考えています。少し我田引水的な意見もありましたけど、ピュアな意見もあるなぁとかいろいろ考えさせられました。
 印象に残っているのは、みんなストレスが多くて、やりたいことだけを仕事にしたいとか。嫌なことを機械がしてくれたらいいとかね。でも、角度を変えたら事実かなとか、言い方を変えたらできそうになることもあるなぁとか、考えました。
 ワークショップで僕が言ったのは、年を取って膝が悪くなって、好きなゴルフをやめるというのだったら、膝だけ補完してゴルフを続けてもらったらいいんじゃないかと。ずっと思っていたことです。同じことをできるだけ続けた方がいい。やめるとさらに年を取りますよ。
 認知症は体が元気で頭が弱っていく概念だと思っていますが、一つだけ悪くなるのが病気で、全体がバランスよく老化していくのがいいんでしょうね、きっと。
 他職種の方がいて、いろんな意見が聞けて面白かったです。話に花が咲きました。

──ワークショップでは、現在の技術や実現可能性は考慮せずに、実現したい社会像を考えましたからね。荒唐無稽とも言えるアイデアも含めてたくさん出ました。
 ただ、高い科学技術を持っている集団の議論ですからね。言いっ放しでは井戸端会議で終わってしまいますが、そういうバックボーンがある集団だから、アイデアをどこに落とし込むかという話になります。有意義なワークショップだったと思います。

──ワークショップへの参加のほかにも、進んでいるプロジェクトはありますか?
 もともとフォトニクスセンターと個別に共同研究をしている医学系の先生もいるんです。先日、そういう先生を中心に集まってもらいました。「こんな技術がある」「こんなことをやりたいね」という情報交換のような感じです。具体的に新たにスタートするというのはこれからです。

──専門の脳神経外科の立場から、どういう期待がありますか?
 フォトニクスの技術を使えばいろいろ測れるので、関心があります。僕らは技術を作るということがあまりなく、今ある技術でやっていこうという発想ですが、拠点に参画してからは違う概念を身に付けてきています。従来とは違う技術を開発して全く違うものが測れるようになったら、全く違うものが見える。そういう概念です。今までは、取ってきたデータをいかにこねくり回すかという感じでしたが、ぜんぜん違う世界が見えた気がします。
 現在の技術で脳波を測っていますが、もしも細胞の成分や組成を測って信号の流れが分かるようになったとしたら、一歩どころではない進歩です。世の中が変わります。フォトニクスの技術には、そういう可能性があると思っています。

──期待が高まりますね。
 僕らは、フォトニクスセンターがどういうものか知らなかったんですよ。だから、阪大中を探したらいろんなことができるのではないかと思うようになりました。工学部のすごさを目の当たりにしたと感じています。

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